福島県教育センター所報ふくしま No.111(H06/1994.6) -007/038page
て大学入試成績を急激に上昇させている。なりふりかまわず,受験学力だけを高めようとすれば,そうなるであろう。
もう一つ本県の場合に見逃せないのは,学年が進むにつれて成績上位の生徒の伸びが鈍る傾向が見られることである。問題としては,むしろこちらがより深刻かもしれない。言うまでもなく,教育の基本は一人一人の可能性を最大限に伸ばすことであって,決して能力を揃えることではない。もちろんその際,下位生徒を犠牲にして上位生徒の指導にばかり手をかけることがあってはならない。
むしろ,成績上位の生徒は,どんどん自分のベースで学習を進めていけるように指導方法や課題の与え方を研究する必要があろう。それこそが,「新しい学力観」が目指す自己教育力のはずである。特に上位の生徒にはこれが可能なのである。
ところで,生徒にそれができるかどうかは,「授業の質」に依存するところが大きい。この点が軽視されがちであることに,現在の受験指導の大きな問題点があると私は考える。もちろん授業の「質」を高めることは容易はことではないし,個々の教師の責任にのみ帰して済ませることではない。
朝自習をどうするか,夏休みの学習合宿をどうするかなども重要であろうが,それ以上にこの課題を明確に位置づけたいものである。
6.「真学カ」先進県こそ本県の道その意味において,本県が学力向上の問題や高校入試の改革に意欲的に取り組んでいることはまことに意義深いことである。「新しい学力観」に関わってはかなり誤解もあるようであるが,それらを早急に克服して,21世紀に向けての確かな学力を十分に向上させたいものである。
また,合否の基準を一発勝負の受験学力だけに置くのではなく,中学校での日頃の学習状況を重視することは,今後の教育のあるベき姿を積極的に追求するものとして高く評価したい。具体的な方法・技術の面ではまだ改善の余地も残されてはいるようであるが,それらについては今後ひき続き検討すればよいのではなかろうか。
東北の受験競争の雄と目される山形県でも,その見直しが始まっているという(日本教育新聞,平成6年4月16日)。やはり,われわれは愚直と言われようとも,どこまでも学力向上の本道を,つまり「真学力」向上の道を万進したいものである。
受験学力先進県に「追いつけ,追い越せ」とばかりに猛進するようなことだけはすベきでない。本県は,すでにその勇気ある決断をしたのである。今後はこの基本方針を貫くと同時に,全県民に,さらに新しく本県民となる人々へも,堂々とそのことを説明し,理解してもらえるよう努める必要があろう。
これこそ「新しい学力観」が提起した課題であると同時に,21世紀に向けての最大の教育課題でもあると考えるのである。