福島県教育センター所報ふくしま No.112(H06/1994.10) -010/038page

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ここでいう課題とは,“問題の解決過程で生じる,はっきりさせなけれぱならない事柄”である。このような授業の過程を意図的に計画することによって,はじめの問題を解決した充実感を味わわせることができるのである。

(3) 解決の必要感がある提示問題の工夫

生徒が意欲的に考えようとするためには,「何をはっきりさせるのか」という目標と,その必要感がなけれぱならない。

そのような授業を仕組むポイントは,はじめに与える問題にあるが,必ずしも特殊な問題を考える必要はない。教科書にある問題でも,与え方や表現の工夫によっては提案性のある問題になり,生徒が意欲的に取り組むようになる。

次に中学3年の素因数分解の例で具体的に説明してみよう。

[問1]次の数をそれより小さい自然数の積で表せ。
1. 12 2. 60 3. 108
[問2]次の□にあてはまる数を求めよ。
1. 9=□(2乗) 2. 100=□(2乗) 3. 324=□(2乗)

教科書の記述にしたがって[問1]から入ると,因数,素数,素因数,といった用語の意味を教えてから,素因数分解の仕方を明らかにする授業の展開となる。

ところが,[問2]から入ると 1.と 2.は直観的に答えを出すことができるが,3.はすぐには答えが出ない。簡単だと思っていたことが「オヤ?」ということになる。

目標は□の数を求めることであり,はっきりしている。時間を与えると,生徒はコツコツと数を代入したり,324を分解しようとしたり,いろいろなアプローチを始めるだろう。そして,324を分解すれば解決できることに気づき,「324を手際よく素数の積に分解するには,どうしたらよいか?」という課題が生じる。ここではじめて[問1]のような素因数分解の練習をする必要性が生まれてくる。

このように,教科書の問題でも学習の順序等を工夫することで,課題を明確にし,「解く喜ぴ」を味わわせることができるのである。

(4) おわリに

「今求められている数学の授業」についてその一端を考えてきたが,数学教育を通して生徒に何を身につけさせるベきなのか,もう一度考えてみたい。

私たちはこれまで,「基礎」から一歩一歩丁寧に教えようとするあまり,教科書記述などの順序性にこだわりすぎていたのではないだろうか。そのために逆に,生徒に考える楽しさや問題解決の充実感を味わわせず,受け身的な生徒をつくってしまったように思われるのである。

基礎的な計算練習等に時間を費やすあまり,数学的に考える段階まで到達していない状況が多く見受けられるのである。

問題解決に当たって,既習の似た場面を想起し,そこでの学習と結びつけることによって自ら問題を解決し,数学的な見方や考え方のできる生徒を育てる授業こそが,今,真に求められているのではないだろうか。

(学習指導部 算数数学科)


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