福島県教育センター所報ふくしま No.113(H07/1995.2) -018/038page
随 想
今 こ そ 観 察 ・ 実 験 を
理 科 教 育 係 長 佐 治 和 則
最近ズボンのサイズがどんどん大きくなっていくのが気になり,ダイエットを始めた。方法は歩くことである。
歩いてみていろいろなことに気付く。まず回りの景色が目に入る。車で何十回と通っている道なのに「あれっ!」と思うことが数々ある。道端の草花にも目がいく。「もうこんな花が咲いたのか,この花の名は何かな」等々。そして一番顕著なことは頭の働きが活発になることである。妄想といってよいほど,実にいろいろなことが脳裏を駆け巡る。ときには仕事のことでひらめいたりもする。当たり前のことだが,車を運転しているときにこんなことはない。
どうも考えることと体を動かすことには関係があるようだ。しかも体を動かす速さに関係するような気がする。あまり速くとも,遅くともいけない。一生懸命走っているときや座っているときは,さほどでもない。適度の速さで動いているときに最も活発に頭が働くようだ。
最近,児童・生徒が考えなくなったといわれる。理科を教えていても,結果だけを知りたがり,その理由や原因を考えたがらない生徒が多い。考えさせようとすると,「しつこい」「理屈っぽい」といって嫌う。「なぜ?」と疑問に思う前に,「そんなものだ」と割り切ってしまう。
その原因はいろいろあるだろう。一つや二つの単純なものではない。しかし原因の一つに,適度な速さでの運動が,生活の中に少ないことがあるのではないだろうか。昔の子供達には生活の中に体を動かす場があった。友達との遊び,家の手伝い等,それらは適度な速さでの運動であった。今の子供達も運動はする。しかし部活動であれ,スポ少であれ,それは考えるのに適した速さではない。家の手伝いなどをする機会も殆どない。つまり今の子供達の生活の中には,適度の速さで体を動かす場が少ないのである。その結果考える機会が滅少し,それが考えない,考えることが嫌いな子供にしているのではないだろうか。今理科嫌い,理系離れが言われているが,これも同根のような気がする。理科も数学も,筋道を立てて考える,考えることが重視される教科である。考えることが苦手な子供達には当然敬遠される。
では理科嫌い,理系離れをなくすためにはどうすればよいか。対策の一つは適度の速さで体を動かす場を設けることではなかろうか。遊び,家の手伝い等何でもよい。その中で,子供達はいろいろなことを想像したり,考えたりして,考える習慣を身に付けることができる。また授業も同様である。できるだけ体を動かす場を設ける。理科の授業における観祭や実験の意義の一つもそこにある。考えるのに適した速さで体を動かす場が少ない今の子供達にこそ,観察や実験が必要なのだと思う。