福島県教育センター所報ふくしま No.113(H07/1995.2) -017/038page

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させたり,カーテンの絵を描いたり,鶏肉に服を着せたり,そんなことは頼んだ覚えがない。Mrs. Rogers が Mary に解雇を言い渡そうとしたとき,夫が彼女の口に大好物のレモンパイをあてがう。レモンパイのおかげで Mary は解雇されずに済む。

既習の言語材料を強化し,新出語句を習得させ,物語のユーモアを読みとらせることを主眼に教材の表層面を走り抜けるような教材研究を進める傾向はないだろうか。

Rogers 夫妻が渡したメモは「書くこと」による communication に示唆するものが多い。要点を的確に相手に伝える Note が発信者と受信者の間に知識,考え方,見方,生活体験,個性等様々な gap が存在し,communication として成立しなかったのである。このようなことは日本語にも起こる。こうした gap を追究すること無しには communication 能力の育成という本質に触れることはできないと思われる。本質を踏まえながら,語(句)が持つ多様な意味,使われ方,そこから生じる誤解やユーモア等に波及していく教材研究が求められる。

また「読むこと」を考えた場合,Mary がなぜ仕事をするよりも先に The pie will be a surprise. と言ってレモンパイ作りに取りかかったのか。恐らく読み取り方は生徒それぞれ違うだろう。例えば,Mary は Rogers 夫妻の一番の好みを知っていた,いや,きっとパイ作りの自分の腕前を示したかったんだ,等々。この一文は story 全体の伏線にもなっており,理解するのに生徒は推理力,思考力,判断力,感性等様々な力を働かせなければならない。生徒が読者としての立場から,Mary に,あるいは作者に問いかけることもあるだろう。つまり文字面だけではなく,「読むこと」に対して主人公や作者との communication を試みるのである。そして story の中での伏線としてこの一文の意昧,Mary が描いた a suprise の意外な展開,面白さが真に理解できるのである。「パイは驚きぴっくりさせるものになるだろう」と日本語に翻訳しただけでは生徒は恐らく真の理解はできないであろう。communication 能力の育成に基づいた音読,読みができないということになる。

4.おわリに

教科書教材は学習指導要領に基づき,様々な教材観に立って編集されている。例えぱ Grammar, Situation, Topic, Notion など様々な Syllabus よって構成されている。教科書を教えるのではなく communication 能力の育成という視点から教材研究を深め,広げ,教科書で教える力を高めていかなければならない。生徒の実態や地域の特性等も考慮にいれながら,指導法も工夫し,適切なものを研究しなければならない。教科書教材が生徒のために真の教材となってはじめて,生徒に確かな学力を身につけさせることができるのである。教師による教材研究の在り方,その視点によって,生徒のための真の教材となるか,否か分かれる。教材研究にあたっては新しい学力観を踏まえ,基盤となる視点を見失うことなく取り組みたいものである。


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