福島県教育センター所報ふくしま No.115(H07/1995.7) -016/042page

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にいわれて仕方なく出かけた。

* D男たちの学びの姿

翌週,それぞれの班の発表になった。

 いよいよD男の班の発表の日,D男はいつも以 上に落ち着きがなく感じられた。班の発表が終わ りかけたとき,資料の提示係であるD男が前面に 出てきた。D男は,教卓の中から細長いものを取 り出して,それを紐解き始めた。だいぶ痛んだ掛 け軸らしいものが開かれると,現れたのは「幽霊」 の絵であった。教室内が騒然となった。D男は, 騒然とした中を「これは,行ったお寺からやっと 借りてきた。すげえべえ」と言いながら,それを 誇らしげにみんなに見せて歩いた。そのときのD 男は,宝物を見せて歩いているように嬉々として いた。その様子を見ながら,D男の発表前の落ち 着きのなさは,この掛け軸を早くみんなに見せた いという思いの表れだったのだ,と合点した。

写真

 各班で準備したものが盛りだくさんで授業時間をややオーバーしたが,授業後,不思議な安堵感を覚えた。

 この試みの後,彼は,生徒たちがやりたいということを大担に授業の中に取り入れていこうという気持ちを強めた。そして,たくさんの知識を詰め込んだ教材を準備することはやめにした。どうしてもこれだけは教えたい(教えなければならない),よくいわれる基礎的・基本的事項だけを見 うになった。極め・それ以外は思い切って切り捨てる勇気を身  G子は,依然社会科に対する嫌悪感が根強い。に付けた。切り捨てるかわりに,新聞記事や雑誌から生徒の興味を引きそうなものを準備したり,生徒の興味や関心にそって調べさせたり,一つの出来事をもとにして生徒一人一人の考えを話させたりするように心がけた。そして,常に生徒一人一人の話に耳を傾けて,一人一人の動きを注意深く見守ることに努めた。

* D男たちのその後

 第2学期になってからのことである。D男が,休み時間にひょっこりやって来た。「先生,うぢにいでもおもしろぐねえ。勉強なんかやる気しね。・・・・・・んでもない,社会科の勉強ってどうやんだい」と,いきなり言い出した。続けて,D男は自分の家の様子を自ら話し始めた。その話に「ううん」「そうかあ」と相槌を打ちながらきいていた。D男の話をききながら,いつもぼうっと外を眺めているD男,指名しても返事のないD男の姿と目の前で自分の家の話をし続けているD男の姿を重ね合わせていた。そこには,D男も勉強をしたがつている。わからないことをわかりたがっている。でも,自分でどうしていいのかわからない。それでいらだっている。そう感じられた。助言らしきことは何も言えなかった。「社会科の勉強は,・・・・・・」などと言ったところで,D男の頭には入っていかない。今のD男には家が落ち着ける所になることだけが強い願いであると感じられたからである。別れ際,「先生,明日,授業で発表すっかんない」と言って,D男は職員室を出ていった。D男の去った後,「どうしてD男は俺のところに話しに来たんだろう」と思ったが,その理由はわからなかった。翌日,D男は約束通り発表した。そして,その後も活発に授業に参加した。

 E男やF子は,教師の指示が減ってきたので,自分で調べたり,考えたりする場面が増えてきた。特にE男は,授業中に挙手する場面も見られるよ

 G子は,依然社会科に対する嫌悪感が根強い。


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