福島県教育センター所報ふくしま No.116(H07/1995.11) -002/042page

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特集・学び合う楽しさ

学び合う楽しさの創造

高野保夫氏写真

 

 

 

福島大学教授   高 野 保 夫


1 はじめに

 新しい学習指導要領の完全実施に移ってから, 今年で4年目を迎えているが,この間,教育につ いての考え方,教育課程編成のあり方,あるいは 各学校段階での授業の進め方など,従来とは違っ た変化が生まれつつあるように見受けられる。が, その一方で,一見矛盾するような動きが同時進行 の形で進んでいるとも言われている。

 たとえば,国語の文学教材の読みの授業の場合 を例にとれば,授業は二つのタイプに分かれる傾 向が強まっているという。(註1)一つは,ひたす ら教師が正解と考えている特定の解釈へと追い込 んでいく授業であり,もう一つは.自由な読みを 主張し,テキストの言葉との格闘も他の子どもや 教師の異質な読みとの擦り合わせも含まない,上 滑りな発表と話し合いに終始する授業であると言 う。前者のタイプの授業のやり方は,旧来の枠を 一歩も出ない保守的な授業観のあらわれとも考え られるが,近年強調される「新しい学力観」への 一種の拒否反応といった解釈ができなくもない。 それに対し,後者のタイプの授業は,子どもの主 体的な意欲を重視しようとはしているものの,教 師の指導性を意識的に忌避している授業とも見ら れよう。それらに対する評価はともかくとして, 授業についての相反するような事実が進行してい る事態は,はっきり見定めておく必要がある。

 同時に,そのような動きの中で,子どもたちが 授業に対して実際に何を感じ どのように行動し ようとしているのかといった問題について確認す ることもまた重要であろう。本センターの昨年の 所報114号には,学習指導部が実施した調査報告 の要点が掲載されている。それは,本県の中学生 の学習に対する意識と行動の実態を明らかにした ものであり,今後の教科指導についての有効な基 礎データになり得るものである。その中で,たと えば「先生にどんな指導をしてほしいか」という 質問に対しては,楽しい授業をしてほしい,的確 なアドバイスがほしい,などといった要望が比較 的高い割合で示されている。また,授業中に発表 しない理由を尋ねた質問項目については,自分の 考えに自信がないから授業中に発表しないという 生徒が,国語の場合でいうと,約7割にも達して いるという。この事実は,今後の授業の改善工夫 を考慮したときには簡単に看過できない問題が含 まれているように思われる。

 これまで見てきた授業の事実や子どもの事実は,教育実践の全体に照らしたときにはそれほど一般化できない問題かもしれない。が,子どもたちの基礎的学力の向上,ふだんの授業実技の質的な転換を図ろうとする場合には,やはり重視せざるを得ないのではなかろうか。以下,小学校や中学校の実践の具体事例もとに,学び合うことの楽しさを追求するための課題について考えてみたい。


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