福島県教育センター所報ふくしま No.117(H08/1996.2) -005/042page
もの人間形成に影響があるという研究成果がある。
コンピュータという機械は,他の機械と人間との係わり方が大きく異なる。通常の機械は,操作する人が違っても同じ仕事ができる。しかしながら,コンピュータの場合には,同じ仕事する場合でも,操作方法は人によってかなり違う。
子どものコンピュータとの係わり方と人間形成の問題については,まだ研究が深められていない。子どもとコンピュータとの係わり方がうまくいくと,コンピュータは人間形成の助けになる。しかしながら,係わり方を間違えると人間形成の大きな可能性を閉ざすといわれている。
5 感性社会
(1)情報の概念と感性
情報は,客観性・正確性・迅速性を基本として いる。また,情報は知っている人が少ないほど価 値があるという特徴がある。ところが,映画やテ レビに代表されるエンタテインメント系映像情報 は,知っている人が多いほど価値が高い情報であ る。多くの人が享受した情報を自分もキャッチし て,それによって仲間意識が生まれるという情報 である。ベストセラーの本を競って読んだり,テ レビの人気番組を見たりするのは,職場や学校な どでの話題の中に入るための情報の享受である。
このような情報は,主観的で,曖昧で,遅く, 多くの人たちが保有するほど価値のある情報とな る。これは,客観性,正確性,迅速性を持ち,少 数の人だけが保有するところに価値があるという 本来の「情報」と正反対のものである。
そのため,これは本来の「情報」の概念の中に入れることはできない。そうなると,これは本来の「情報」とは区別して「感性」と表現した方がいいと考えられる。
これからの映像情報の利用を考えると,これまでの客観的で正確という情報を基盤として,その上に「感性」が加わってくると思われる。
たとえば,マルチメディアのテレビ会議の席上 で,提案の説明中に,一瞬社長の顔色が明るくな ったのを,高精細度な画面で明確にとらえること ができたとする。これでこの提案は受け入れられ る可能性があることがわかる。このような「顔色 が明るくなった」という感性的側面は,文字や音 声などの情報の通信では伝わらない。高度な映像 情報によってはじめて伝わるものである。
映像情報を使うことは,このような「感性」が伝わるところに意味がある。すなわち,これからの情報社会は,本来の客観的で正確な「情報」とともに,社会の中に「感性」をうまく取りこんで流通させることが重要な要素となってくる。
(2)豊かな感性
豊かな感性は,美しさの判断,みずみずしい感 情,情操といった豊かな人間性と,知的好奇心, 意欲,直感などの創造を生み出す基盤となるもの で,教育を支える重要な資質と考えられる。
今日の社会では物質的豊かさが実現され,人々 が自分の個性にあった様々な選択ができ,「豊か さ・ゆとり」を実感できる生きがいのあるライフ スタイルを実現したいという欲求が高まってきて いる。国勢調査の産業分類別就業者数の推移をみ ると,1990年では第1位製造業,第2位サービス産業が,1995年の調査ではサービス産業が第1位 になると予測されている。サービス産業には運輸 (鉄道,海運,航空,自動車),通信,商業,金 融,旅行,ホテル,娯楽,情報などが入っている。 サービス産業が社会に提供しているのは,本来の 情報の部分はあるが,その多くは心の豊かさ,ゆ とり,快適さといった「感性」である。
これからの社会は,放送や新聞などの情報産業が中心となって情報を提供する以上に,人々が「ゆとりと豊かさ」という感性を求める感性社会へと移行していくことになろう。