福島県教育センター所報ふくしま No.117(H08/1996.2) -026/042page
IV まとめ
宿泊体験学習における成果を指導援助者による観察や児童生徒の感想から述べる。
1 観察から
宿泊体験学習における所期のねらいがどのよう に達成されたかを,A〜Jの10項目の観点を設け, 児童生徒の実施前と実施後の様子を4段階で評価 した。
下記のグラフは結果を平均化したものである。
*「1」はみられえない 「2」は時々見られる 「3」はみられる 「3」はみられる 「4」はよくみられる
観察の結果を集団活動を通した指導援助のねら い(前述P23参照)と関連づけてみる。
(1)集団化へ向けて(ラボールの形成,心理的解放)
「砂の芸術や野外炊飯」における活動で,児童生徒は,指導援助者に自分の気持ちや考えを受容,支持され,自由に自己表現できたことで,思う存分活動したという心理的な解放感や充実感を味わうことができた。
また,それによって得られた心理的な安定は,児童生徒相互の人間関係を深め,「表情の豊さや元気のよいあいさつ」への変容に結びついたものと考えられる。
(2)集団内での安定(協調的行動,参加意欲)
「野外炊飯」での異年齢の交流は,作業の役割分担,調理,後片付けに至るまで行われ,仲間一人一人の結び付きを一層強めることになった。
また,異年齢の交流によって,年齢差のある児 童生徒が助け合いながら,仲間と調理を完成する 喜びを実感できたことは,児童生徒にとって,大 きな自信となり,「仲間への協力,我慢強さと遂 行力」の高まりへ結びつき,その後の集団活動へ のエネルギーとなったものと考えられる。
(3)対人関係の譲成(自己理解,他者理解)
「砂の芸術や野外炊飯」の遊戯的活動や異年齢の交流は,単に,遊びに流されないようにするために,その都度,振り返りを大切に行った。
遊戯的活動の振り返りでは,「ルール」を取り入れたり,異年齢の交流の振り返りでは,対人関係づくりに必要な対人スキルを学習させ,対人関係の醸成に努めた。それらは,「自己主張や仲間への感謝」の高まりに結びついたと考えられる。
2 児童生徒の感想から
- 調理に自信を持った。家族のみんなに作って食べさせたい。(小学6年生 D男)
- このような楽しいキャンプを家族とやりたい。釣りもしたい。(中学2年生 C男)
- 失敗するかも知れないと不安だったが,思い切ってやってよかった。(中学3年生 B男)
- 参加するのはいやだったが,みんなと友だちになれてうれしかった。(中学3年生 A男)
児童生徒の感想には,砂の芸術や野外炊飯等の集団活動を通して,心理的な解放によって,不安や不満が軽減され,自信を回復した様子が伺える。
3 成果
宿泊体験学習に,遊戯的活動や異年齢の交流を, 積極的に取り入れたこと,さらに,指導援助の中 に,振り返りを入れたことは,児童生徒の自己へ の気づきを促し,対人関係の改善に必要な協調性や社会性を強化し,再登校を促進するきっかけに なったものと考えられる。
このことから,不登校児童生徒に対する集団活動を通した適応指導において,宿泊体験学習は,心理的な不安の軽減や対人関係の改善を図る面において,かなりの成果が期待できる。
主な参考文献
- 富山県総合教育センタ− 「研究紀要9号」
- 児童心理(第48巻第10号)「異年齢間の友だちづくり」塚用亮
- 月刊 学校教育相談(第8巻第11号)「遊戯療法」平尾美生子