福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.122(H09/1997.11) -035/042page

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 ある者は、交点を画面の中央付近にとって安定を望み、ある者は、画面の求心性と遠心性との間で程良いバランスを探ろうとしている。

 対象者数の違いがあるが、Aにおける図4では画面中央に集まろうとする点の集団を感じる。またBにおける図5では中央から対角線に沿って移動する点の動きを感じる。交点が対角線上に位置するということは、水平・垂直の分割によって画面と同じ万矩形が、あと2つできることであり、画面全体の縦横の割合をどこかで意識していることを意味する。

 統計によると、画面を横の帯に9分割したときにできる中央の帯の中に水平線を引いた者の割合は、Aにおいて60名の42.6%と、Bにおける19名22.1%の倍近くになっている。このことは可能性として、静物を描く場合のテーブルの線や風景を描く場合の地平線を、最初に画面中央付近にとる者が、Aにおいて多いであろうことを示している。

4 おわりに

 バランス感覚は、身体的なものを根源とし、造形においては、様々な造形体験を経て、個々に形成されていくことは先に述べた。立体の表現では物理的に、構造としてバランスがとれていないと作品として成り立たせることができない。それに対し画面上のバランスは、心理的な要素のしめる割合が多い。ゆえに、構成のアンバランスに気付いたとしてもその原因を探るのは難しく、安定を望む傾向を持つのはごく自然のことである。発達段階としては、年齢とともにしだいに画面の緊張を求めるようになり、複雑で微妙なバランス感覚に移行する。

 Aグループの傾向を持つ図6の作品は、左右対称を基本としながらも、なんとか変化をつけようとテーブルの線でそれを試みている。高校生としては稚拙であるが、鉛筆の運びをみると何か確信めいたものを感じる。光の源、太陽が直接描かれ室内に差し込む光は斜めの線の集合となって表される。図7は非常に合理的で、画面には描かれていない太陽の位置まで分かる明暗で表現されている。また、画面に奥行きを与える斜め線の構成をこともなげにやっている。

 描画の傾向を発達段階における到達度で捉えるのでなく、今、その生徒が持っている資質としてみれば、「ここまでできる。」というプラスの見方から始まるべきであろう。再現描写の要素を多く持っ題材を、自分の「下手だったこと一の確認で終わらせたくはない。

 調査のテーマとして取り上げた、構成感覚についても理論から入る内容でないことを、今回の調査から強く感じた。今後の題材の設定及び指導法の研究にここでの調査を生かしたい。

図6 図7

○参考資料・文献
・大橋暗也「実践教育体系4・子供の発達と造形表現」開隆堂(1982)
・第49回全国造形教育研究大会資料「現代高校生の基礎的造形能力およびその表現傾向の分析」(1996)


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