福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.123(H10/1998.2) -038/042page
随 想
事実と解釈
教育センター科学技術教育部主任指導主事 阪路 裕
プロ野球A軍対B軍のナイター中継をラジオで聴いた。8回表までBが6-0で楽勝ムード、ところがその裏Aが4点をあげ、さらに9回裏ワンアウトフルベースで1打同点、長打で逆転サヨナラと猛反撃にでた。しかし結果は、次のピンチヒッターがダブルプレーで試合終了。試合後の両軍監督のコメント、A軍監督「あと一発で逆転までいったんですからOKですね。Bも冷や冷やしたんじゃない。」、B軍監督「6ー0でなく、6-4までいって負けたのだからAもこたえたじゃろ。」、どちらの監督も自分のチームに都合のよい解釈をしている点が面白い。
事実はひとつ、結果はひとつであっても、その解釈のしかたはひとつとは限らない。事実をどう解釈し、どう受け止めて行動するかによって、以後の展開に違いが出てくるということはよくある。入学試験を半年後に控えた受験生が、「あと半年しかない」と思うか、「まだ半年ある」と思うかでは、以後の取り組みに違いが出てこよう。予想と結果が少し違ったとき、「少し違った」とみるか、「ほとんど同じ」とみるかによって対応のしかたはまったく違ってくる。「まだ…大丈夫」と「もう…ダメだ」では天と地の差だ。
終わったこと、起こったこと、事実はどうすることもできない。しかし、これからはじまること、これから起こることについては、対処のしかたによっていくつか選択の可能性がある。だから事実をよりよく解釈し、プラスに受け止めて行動するほうがよい結果をもたらす可能性が高い。よく言うプラス思考である。ただ、目先の利益だけを考えた、自分勝手な解釈はプラス思考とはいえない。長い目で見たときに決して本人にプラスには働かないからである。また,こういう場合にはこう解釈したほうがよい、という決まりがあるわけでもない。「あと半年しかない」と考えることと、「あと半年もある」と考えることのどちらがプラスに作用するかは人にもよるし、ケースバイケースである。
大切なことは、事実を正しく認識したうえで、状況に応じ、未来に向け、自分にプラスに働くような受け止め方、考え方をすることである。これが、よりよく解釈するということである。このためには、柔軟な思考と冷静な判断、寛大な心が必要となろう。このような能力は、書物を読んだからといって得られるものではなく、様々な体験の中から、自分で意識して少しずつつかみ取っていくものである。
毎日が、あるいは人生が、でき事の連続であるとするならば、過去をどうとらえ、どう解釈して現在を生きるかによって、未来のあり様が変わってこよう。事実は事実として認め、それをよりよく解釈し、よりよく解決していこうとする姿勢はどんな場合にも大切なことであり、「生きる力」に通じるものである。