福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.128(H11/1999.11) -019/042page
大木先生は黙って、話を最後まで聴きました。
直子の目には、涙があふれていました。大木先生はしっかりとした口調で、景子に対する行為はいじめであること、いじめはどんな理由があっても許されないことを話しました。そしてこう語りかけました。「誰の心の中にも、いじめの芽は潜んでいるんだよ。大事なことは、自分の心の中にあるいじめの芽と向き合うことなんだ。このことは先生も含め、みんなで考えなくちゃならない課題だよね。」
〈学級への働きかけ〉
大木先生は学級委員の芳子たちと話し合い、学級活動の時間にグループ・エンカウンターを実施することを提案しました。「和やかな雰囲気の中で笑ったり話し合ったりしてみたい」と賛成の意見が出される中、「本当にやるの?なんか恥ずかしい」といった意見も出されました。
大木先生は消極的な意見にも耳を傾け、そうした気持ちがあってもいいことを伝えました。話し合いの結果、「私は人と違います」を中心の活動にして実施することになりました。
【学級活動の時間】 景子(1):私は人と違います。なぜならば、本をたくさん読むから……。
景子(2):私は人と違います。やさしい友達がいるからです。
振り返りの場面では、「恥ずかしかったけど自分の気持ちが言えたし、みんなのこともわかってうれしかったです」と発表した景子に拍手が起こりました。一方、直子は振り返りカードに「普段とは違う友達のよさを見つけられてよかった。こういうのもいいなって思った」という感想を書いていました。
大木先生は、こう授業を結びました。「今日は一人一人がいろんな気付きを体験しましたね。自分について、友達について……。一人一人いろんな感じ方や見方のよさがあって、似ているものもあれば、違うものもある、先生も改めてそれでいいんだなと感じました。」
いじめの早期発見と対応のために いじめは見えにくく、キャッチしにくいといわれます。
E中学校では、年度始めに『いじめ発見マニュァル』で早期発見の重要性を確認し、いじめ調査を実施していました。大木先生はその結果から、いじめはないと過信していました。しかし、学年主任からの助言を受け、生徒と活動を共にし、数々のサインやシグナルが発信されていたことに気づいた大木先生は、自分の指導を見直すようになりました。
学年会や生徒指導部のバックアップのもと、どの生徒も内面に悩みや問題を抱えているという視点にたち、指導援助を行いました。景子に対してはいじめの有無や程度を探る接し方ではなく、景子が心を開き、ありのままの気持ちを表現できるように景子の気持ちや立場をわかろうとしました。直子に対しては、自分の行為がいじめであり、景子が悩み、苦しんでいることに気づかせると共に、直子の問題に寄り添い、気持ちを受け止めようとしました。学級については、互いの個性や違いを認め合い、尊重し合う支持的・受容的な学級の風土づくりをめざしました。クループ・エンカウンターの実施にあたっては、教育相談担当や養護教諭からアドパイスをもらいました。
大木先生は、学級で起きたいじめ問題を自分自身の生徒理解の深さの問題、生徒との人間関係の在り方の問題と受け止め、自分の中に景子らを受容する態度を育てていきました。いじめの芽を早期に発見し、初期の段階で適切な指導援助を行うことができるかどうかの鍵は、このような教師の姿勢にあると思われます。