福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.131(H12/2000.11) -001/042page

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巻頭言

教師自らが感動体験を

教育センター科学技術教育部長  白瀬 美智男

教育センター科学技術教育部長 白瀬 美智男

教育改革国民会議の中間報告が出された。この中で、21世紀は「ITや生命科学など、科学技術がかってない速度で進化し、世界中が直接つながり、情報が瞬時に共有され、経済のグローバル化が進展する時代」と予想されている。また、日本のエネルギー研究を代表する人々によれば、21世紀は「地球人口の急激な増大の中で『経済発展』『資源確保』『環境保全』の三者を同時に成立させなければならないというトリレンマ構造を抱えて、人類の持続的発展を図らなければならない試練の世紀」でもあるという。こうした21世紀の姿を踏まえ、国民会議の提言では具体的に「子供の自然体験、職場体験、芸術・文化体験などの体験学習を充実すること」をあげている。その上で「我が国が考える力を養う学習を推進し、政治、経済はもとより、環境、科学技術、その他新しい分野で世界をリードできる識見を持ったリーダーを育成するという時代の要請にこたえられる教育を行う」ことの必要性を説いている。

振り返ってみると、現行学習指導要領が小・中学校では平成4年度から、高等学校では平成6年度から実施に移され、知識偏重から脱却して、思考力、判断力、表現力などをはぐくむ新しい学力観に基づく教育が進められてきた。しかし、各種の調査結果は、その後の教育効果が目に見える形で現れていないことを示しているという。こうした反省に立って、新学習指導要領では「総合的な学習の時間」を新設するなど、「ゆとり」の中で「考える学習」の実践を強く求めている。幸い、学習指導要領の移行措置を受け今年度、「総合的な学習の時間」などで、このような問題解決に向けての取り組みをしている学校がかなりあることが窺えて力強いかぎりである。

元文部大臣の有馬朗人氏が、ある講演で「生きる力」とは「自ら考える力」であると言っていた。これを聞いてすぐさま頭に浮かんだのが「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ますことはできない」という言葉である。子供が水を飲むにはどうしたらよいのだろうか。この問いにふさわしい話がある。子供の思いや願いを大切にしたボトムアップ型の授業を提唱している宇都宮大学の奥井智久教授が、「子供が抱いた『〜したい』という意識を生かして学習活動を展開することは、それが学習を推進するエネルギーとなり、学習を維持・発展させるのに大きな効果をもたらすことになる」と論じている。子供の思いや思いがかなったことによる感動をもとにした学習展開は、主体的な取り組みを促し、学習心理学でいう「転移」も起こり易くする。それにしても、いかにして子供たちに感動的な体験をさせるかが鍵になるだろう。当センターにおける理科の講座の中では、身の回りのものを使って作り上げた器具で、高価な器具使用に劣らぬ実験ができて、感動の声を上げる研修者の姿をよく目にする。また、生物や地学の野外観察や巡検では、自然を直接観たり触れたりできた感動や喜びの感想を残していく研修者が多い。この感動や喜びを大事にしたい。教師自らが体験した感動や喜びを、指導の場面でタイムリーに、しっかりと子供に伝え、経験させていくことが、知識の定着を図り、子供に持続的な学習を促す力になると確信する。


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