*登場する人物は,すべて仮名です。
1 森田先生の気がかり
「洋子さんって,表情が暗いなあ。どこかおどおどしていて自信のない様子も気になるわ。」
森田先生は,放課後の教室で子供たちの記録をまとめながら考えていました。もう1学期も終わろうとしているのに,洋子さんの"心からの笑顔"を見たことがありません。いじめも疑ってみましたが,特に問題となるような出来事もありません。
「性格だから仕方がないのかしら。でも,このままでは友達とうまくいかないこともあるだろうし,心配だわ。」
森田先生は,34歳の女の先生です。3年生を受け持っのは,3度目です。今の学級は,今年から担任しました。
森田先生は,子供たちとのふれあいを大切にしたいと考え,校庭でボールを追いかけたり,休み時間に教卓の周りで話をしたりする時間を多く持つようにしていました。もちろん洋子さんにもできるだけ声をかけるようにしています。
しかし,洋子さんとの心のっながりがまだ持てない感じがしていました。
2 気になる“あざ”
「あらっ,この背中の“あざ”どうしたの。」
2学期の発育測定で記録をしていた森田先生は,驚いて洋子さんに尋ねました。背中に内出血の跡があるのです。よく見ると,背中だけでなく,腕や足にも何かにぶつけたような跡があります。
「洋子さん,どこかにぶつけたの。」
しかし,洋子さんは答えません。気になった森田先生は,放課後改めて話を聴く機会を作りました。
森田先生
|
:
|
“あざ”を見て心配になって話を聴きたいと思ったの。どうしたのかな。 |
洋子さん
|
:
|
………。 |
森田先生
|
:
|
何か言いにくいことでもあるのかな。 誰かにやられたとか。 |
洋子さん
|
:
|
………。 |
森田先生
|
:
|
よかったら,話してみて。 |
洋子さん
|
:
|
………。何でもありません。 |
森田先生
|
:
|
そうなの………。洋子さん,いつでも力になるから,困ったときは相談してね。 |
|
森田先生は,洋子さんの表情の中に何か気持ちの動きがあることは感じ取っていました。けれども,それが何なのかうまく引き出せない自分の力不足を痛感し,もどかしい思いがするのでした。