福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.135(H14/2002.2)-003/036page
しい経緯はわからないが,どうしてこんなことが起こるのかと,驚きを通り越して,無念さを感じてしまう。やって良いことと悪いことの判断や,これをやったらどうなるのかという結果を見通すこと,生きていく上で社会のルールを守る態度や,考えたり判断したりする力が身に付いていないのではないかと指摘されてきたのだが,今回のことでもまた同じことを繰り返してしまった。
彼らに共通しているのは,時によって,場によって,事に当たって,どのように考え,どのように行動すればよいのかがわかっていないことである。それは,時々にきちんと教えられるべきことを教えられず,躾られるべきことを躾られずに,いい加減にされ,甘やかされて成長していることに原因があるように思われる。
このごろ,家庭においても,学校においても,あるいはちょっと出かけた街中においても,「う一ん!」と唸ってしまう光景が目に入ってくる。
元来,子どもたちは教えられないことはできないし,躾られないことは,意味も分からないし,身にも付かないものだ。その上,「これが目標だ,がんばれ」と目指すものを示されず,どこを目指せばよいのか,目標が見当たらないでいるように見える。
"さまざまな状況"の中で,今,目標にも,模範にもならない大人が増えているのではないか。それでも,前述したように,彼らがアンケート調査結果の程度まで到達できているのだから,「よくがんばっている」と評価してみたのだが。
では,この先「どうすれば………」,それは,実にむずかしいことなのだが,大人がまず"我が振り"を直すこと。その上で,子どもたちに言うべきことをきちんと言い,注意し,教え,躾ることがどうしても必要ではないかと思うのである。それも,見てもらえるだけの価値がある"後ろ姿"をきちんと見せることが必要だ。本気で,待ったなしで,みんなで。
実にむずかしいことではあるが,まず,我が家で,まず,我が校で,まず,我が地域で。できることから始めることが急務である。
幸いなことに,私たちにとって,"模範とすべきこと"があるように思う。生き死にの中で,命を懸けて子育てをしている野生動物の親の姿がそれだ。そこには理屈はなく,その時その時が生きるか死ぬかの戦いであり,種が保てるかどうかの瀬戸際であり,群れとしての規律を維持できるのかどうかの大問題だということを本能的にしっかりと理解している。だから,我が子に,そして群れの子どもたちに生きる術を徹底的に教え,徹底的に鍛えて,やがて一人前(一頭前?)になって自立し,生き延びることができるように,群れの安定を保つことができるように,それこそ厳しく,厳しく育てているように見える。
さて,このままでいるのか,踏み出すのか,私たち大人が本気で選択しなければならない。
まず,大人自身が,我が振りを直す。その上で,子どもたちがきちんと自立できることを目指して,親として,本物の愛情が十分こもった,厳しい,そしてあたたかい,子育てに今すぐにでも踏み出すことが肝要であると思う。
かく申し上げている私自身も全く駄目,自分に唾を吐いているのだということを承知の上で,敢えてこのように考えなければならない程に事は深刻になっている。
加藤征男先生のプロフィール
福島大学学芸学部卒業後,西郷村立西郷第二中学校,川谷中学校,棚倉町立棚倉小学校,白河市立白河第二小学校,只見町立朝日小学校の教諭,白河市立白河第二小学校教頭を経て昭和62年義務教育課指導主事,平成元年矢吹町立三神小学校長・三神幼稚園長。平成3年より義務教育課指導主事,管理主事,主任管理主事,主幹,会津教育事務所長を経て平成10年義務教育課長,平成11年参事兼義務教育課長兼県北教育事務所長。現在白河市立白河第一小学校長,福島県小学校長会長。