福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.135(H14/2002.2)-020/036page
じていました。
坂本君は,3年生になってからはよく進路指導室を訪れ,山本先生に進路のことを相談していました。山本先生は授業も生活指導も厳しいことで有名な先生でした。しかし坂本君は,悪いことをした時には本気で叱りつけ,相談を持ちかけた時には親身になって聞いてくれる,そんな先生の人柄がとても好きでした。
2 ある事件
就職試験の解禁が間近に迫っても,坂本君の希望する自動車整備関係の求人はありませんでした。同級生の多くは「自分のやりたい仕事」よりも「受けられる会社」を探し出し,書類を送付していました。多くの生徒がそれぞれの目標に向かって歩み始めた時,坂本君の心の中は「ぜったいに妥協しないぞ」という気持ちと「このまま就職できなかったらどうしよう……」という焦燥感が入り交じってとても複雑でした。
10月に入っても坂本君の希望する自動車整備関係の求人は来ませんでした。その頃から,ノートを取らない,提出物を出さない等,坂本君の授業態度に変化が見られるようになりました。そんな坂本君の様子を各教科の先生から聞いた上田先生は,2人だけで話し合いの場を持ちました。
上田先生 :坂本,最近授業に身が入らないみたいだな。 坂本君 :……そうでもないっすよ。 上田先生 :そうか?私の授業はちゃんと受けてるけど,他の授業ではノートも取ってないって聞いたぞ。 坂本君 :……。 上田先生 :やっぱり進路のことか? 坂本君 :……。 上田先生 :お前の気持ちもわかるけどなあ……このままじゃフリーターになるしかなくなっちまうぞ。 坂本君 :……。 上田先生 :困ったなあ……。 坂本君 :……先生が困ることないじゃないですか。困っているのは俺の方ですよ。話ってそれだけですか?じゃあ今日は帰ります! 上田先生 :おい,坂本! 学校を飛び出した坂本君は,自転車にまたがると全速力で駅方面に走って行きました。
駅の近くのコンビニエンスストアに入った坂本君が車の雑誌を買い終えて急ぎ足で店を出ようとした時,彼の腕を後ろから店員がグイッと引っ張りました。彼のバックには未会計のCDが2枚入っていました。
3 学校にて
上田先生 :何であんなことしたんだ?去年の謹慎が終わるときに「もう万引きはしません!」って,すごくいい顔で言ってたじゃないか。 坂本君 :……。 上田先生 :そんなにあのCDが欲しかったのか? 坂本君 :……わかんない……。 上田先生 :わかんないってことはないだろう?自分がやったことなんだから。 坂本君 :……わかんないんですよ。自分でも…。 上田先生 :なあ坂本。進路が決まらなくてイライラする気持ちは俺にもわかる。でも万引きはいかんぞ。 坂本君 :……わかってます……。