福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.135(H14/2002.2)-021/036page
上田先生 :本当にわかってるのか?俺はお前が心配なんだ。もうすぐ卒業なんだぞ。もっとしっかりしろ! 坂本君の膝に置かれた握り拳が小刻みに震え始めました。次の瞬間,彼は勢いよく立ち上がったかと思うと,唇をかみしめたまま,涙で潤んだ目で上田先生をにらみ返しました。そんな坂本君を目の前にして,上田先生はしばらくの間,投げかける言葉を見つけられないでいました。上田先生には,彼がなぜこのような態度を取るのかが理解できませんでした。
4 生徒指導部会
会議の場では「自主退学を迫るべきだ」等の厳しい意見も出されましたが,最終的には三度目の謹慎を言い渡す,ということになりました。しかし,今回の謹慎は卒業直前までの長期の謹慎ということになりました。
指導部案が決まった後,ある先生が上田先生に問いかけました。
「上田先生。どうして坂本君の万引きは止まらないんでしょう?」この何気ない質問に,その場にいた先生方は全員黙ってしまいました。しばらく静寂が続いた後,養護教諭の清水先生が話し始めました。
「私,坂本君の万引きは,何かを私たちに訴えたい……その……メッセージのようなものなんじゃないかって思うんです。」清水先生の言葉に,上田先生はビクッとしました。清水先生が続けました。
「一番苦しんでいるのは坂本君本人だと思うんです。悪いことだとわかっていてもやってしまう自分にすごく腹が立ったり,悩んだりしていると思うんです。そんな彼に『しっかりしろ』とか『頑張れ』とか言ってみたところで,何の慰めにもならないと思うんです。今回取ったのはCDでしたが,本当に彼が求めているものは何なのか,ということを彼と一緒に考えてあげることが必要なんじゃないでしょうか……。」清水先生の話を聞いた上田先生ははっとしました。そしてなぜ坂本君が最近頻繁に進路指導室に行くのか,彼が山本先生に何を求めていたのか,うっすらと見えてきたような気がしました。上田先生は思わず唇をかみしめました。
5 父親との会話
今回の謹慎の申し渡しには,初めて父親が来校しました。上田先生が父親と坂本君を校長室に案内しようとしたとき,進路指導部長の山本先生がそこを通りかかりました。山本先生は坂本君の前に立ち止まったかと思うと,廊下中に響き渡るような声で「馬鹿者!」と彼を一喝しました。すると,坂本君の目からは,見る間に大粒の涙がこぼれ落ちました。その様子を目の当たりにした上田先生は,驚くと同時に,山本先生の生徒に対する愛情を感じずにはいられませんでした。
謹慎の申し渡しが終わった後,坂本君を一足先に車に向かわせた父親は,上田先生に深々とお辞儀をしながら次のような話を始めました。
「実は昨日,初めて息子を殴ったんです。そうしたら,さっきの先生に怒鳴られた時と同じようにボロボロ涙を流して……。その時,息子はとっても素直な顔をしていました。まるで小学