福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.135(H14/2002.2)-022/036page

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生のように……。」

その話を聞いた上田先生は,先日の清水先生の話を思い出していました。そして同時に,坂本君の「メッセージ」が何なのか,おぼろげながらわかってきたような気がしました。
「俺にもできることがあるかもしれない……。」
坂本君の父親を見送りながら,上田先生はそんなことを考えていました。

6 その後

学年末考査も終わり,他の3年生が自宅学習に入った2月上旬以降,上田先生は授業の空き時間のほとんどを坂本君と共に過ごしました。一緒に大きなビニール袋を片手に,校舎周辺のゴミ拾いもしました。自転車置き場のプレートが割れているのを見つけると,一緒に新しいものを作りました。上田先生は言葉ではなく,同じ物に触れ,同じ時間を共有することで,坂本君との心の交流を図ろうとしました。

卒業式を間近に控えた2月下旬,坂本君の謹慎が解除されました。その席で父親は「自分の知り合いの工場で息子を使ってもらえないか頼んでみようと思うんです。」と話しました。かたくなに自動車整備の仕事にこだわっていた坂本君だっただけに,上田先生は心配そうに坂本君の顔をのぞき込みました。しかし,上田先生の心配とは裏腹に彼は笑みを浮かべ,「先生,俺何年かそこで働いてみようと思うんだ。働かなきゃ見えないこともあるかも知れないし……。」と答えました。

坂本君の言葉を聞いた上田先生は,彼と強く握手をしました。そして,車に向かう父と子の背中に向かい,「坂本,ありがとう。いつかお前の夢がかなうことを祈ってるぞ。」とつぶやきました。

《高校生の心に気付くために》

高校生にもなると,親や教師は「もう子供ではないのだから,自分のことは自分で考えて行動しなさい」という態度を取りがちです。しかし実際の高校生は,励ましや叱責の言葉,そして「共に悩んでくれる」「共に考えてくれる」大人の存在を求めています。
○「私をわかってほしい」という気持ちに気付いていますか。
高校生は大人が思う以上に「もっと自分に関心を持ってほしい」と思っています。上田先生は当初「坂本君が何を求めて万引きをするのか」ということに思いが至りませんでした。高校生の中にも,自分の思いや考えをうまく言葉にできないために,「行動化」することで周囲に知らせようとしている生徒がかなりいると思われます。彼らの「言葉にできない何か」を理解しようとする姿勢が大切です。
○「レッテル貼り」をしていませんか。 
生徒が問題を起こしたときに,「悪い生徒だ」「親が悪い」とレッテルを貼るだけでは何も解決しません。実際には親や本人が最も苦しんでいるというケースがよくあります。生徒が「問題を起こしている」と考えるのではなく,「問題を提起している」ととらえることで,生徒理解への道が開けてくるのではないでしょうか。
○生徒に近付いていますか。 
生徒の内面を理解するためには,勢と全体を眺めるのではなく,一人一人の生徒に近付き,小さな声にも耳を傾けることが大切です。そうすることで初めて生徒の求めているものが見えてきます。「最近の高校生は一昔前に比べて幼くなった」と嘆く前に,生徒に寄り添い,生徒の目の高さで話を聴くことが,高校生の成長を図る上で大切なのではないでしょうか。


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