北会津村誌 -491/534page

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 坊さんは、さんぼうの助のいっていったのはこのことだなあと思い、あらかじめ用意していいつけておいた、 五平という小僧に飼犬を「五平今だぞ」といって放たせた。おとふれ狐は、ばけの皮があらわれ、犬に追われて 山に逃げ、最後にはかんこの疵をひって姿が見えなくなつた。

 他方さんぼうの助は、旅には出たものの、どうしても夢見が悪いので、京まで行かないで途中から引返してき て、この話をきいてびっくりした。「何んとも御礼の申し上げようがない。お蔭様で大切な巻物が助かった。何 か御礼をしようと思うが、狐の身では何もできない。幸いばけることは上手であるから、芝居をやってお目にか けます。しかし何といっても獣の身、坊さんに、思わず有難い念仏など唱えられますと、たちまち逃げちってし まいます」「決していわないから、ぜひ見せてくれろ」ということになって、夕方になって坊さんが河原にでか けてみると、たちまち大きな舞台がかかり、どとんこどんと太鼓がなりひびき、芸題は平家物語、熊谷敦盛の段 でここで「一の谷の戦敗れ、平家の公達、助船に乗らんとして、海の方に落ち給う…」となる。これが敦盛をく みふせて、直実がつきさす段になると、坊さんは、あまりに真にせまっているので、約束のことも忘れて、思わ ず「南無阿弥陀、々々々」と念仏を唱えてしまった。

 さあ大変、舞台はがたがたと崩れ、明りは消えて、たちまちもとの河原になってしまった。そこへさんぼうの 助が現れて「坊さん、あれほど頼んだのに、どうして念仏を唱えられましたか」「ほんとに悪かった、もう決し て唱えないから、もう一度だけみせてくれろ」「決して唱えてはなりませんよ。もう一度だけ集めてやらせてみ ますから」と念を押して始めた。たちどころに舞台がかかり、また先の直実、敦盛の段になると、またつい坊さ んは念仏を唱えてしまった。さんぼうの助がまた現れて、「今度こそ集ってきませんよ」と念を押した。坊さん も、それほど尽してくれても、思わず唱えてしまったのだから、これで終りにしましょうと。ざっと昔さかえ


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