北会津村誌 -494/534page

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刻と思う頃森の草木がざわめき、一陣の風がスウッと吹いたと思うと、眼を爛々と輝かした魔性の怪物が、唐櫃 の前に立ちはだかり、舌甜めずりして蓋を両手で持ち上げた。とっさに武士は刀のつかも通れとばかり相手の胸 板目がけて突き刺した。

 魔性はアッと森にこだまするような声を挙げその蓋を投げすて虚空を掴んで悶絶した。そこで魔性の腹に足を かけ刀を引き抜いて首を打ち落し用意して行った太鼓を打って事の成功したことを、十町ほど離れた村の人々に 知らせた。村人は断続的に十何年か苦しめられた人身御供の苦しみから解放され、庄屋は天にも昇る喜びであっ た。聞き手の家の孫ども近所の子供らもホッと安堵の吐息を漏らした。お祖母さんは
 「ザットむかし栄けえました」
と談りながら孫子らの顔を眺めまわした。(坂内萬の手記より)

 人身御供の話はいろゝな形体で語り伝えられているが、一つは神に供えるいけにえ、それを供える家に目じる しのしらはの矢をたてたともいう。この昔話の原型は、出雲神話の八岐大蛇退治の「古事記」にある話であるか とも思われる。これをいけにえの話と結びつけて、悪代官などの良民を苦しめるのに対する抵抗、民衆の声を、 物語りとしたものではないかとも思う。古くから日本の各地に伝わる話であり、日本文化の源流につながるもの であることがわかる。

  三、伝 説

 1、三鈷の松 いくつかの整った立派な伝説がある。寺院の縁起伝承であるが、下荒井蓮華寺創建にまつわる 三鈷の松の伝統はその最たるものと思はれる。下荒井と寺院の項に述べてあるので詳述しない。仁範が願心をた


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