サクシード2中学校国語から高等学校国語へ-019/81page

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新しいといい得るものが世の中にあるであろうか。むしろ平素自明のもの、既知のもののように考えていたものに驚異を感じ、新たに見直すところにある。(「人生論ノiト」三木清新潮文庫)

●落語・演劇のすすめ
 また、視点を変えるという点で、落語における語りは示唆に富んでいます。一人の人物があるときには長屋の住人になり、あるときには侍に、そして、あるときには番頭になるという変幻自在さが語りの世界の奥行きを広げ、一種の複数の世界観があらわれています。
 例えば、有名な「粗忽長屋」では、幾重にも巡らされた重層的な視点の動きにより、人物像が的確に、そしてユーモラスに表現されています。(上段参考)
 演劇を鑑賞することや、実際に自分が劇の登場人物になりきってその役割をこなすことも、心情を深め、多様な見方をする契機になります。また授業の中で、ロールプレイング(役割実演法)を取り入れることによって豊かな表現を学ばせることもできます。

書いてみよう
■旅に出た時の経験で、見方や考え方が変わった経験を書いてみよう。

 ※修学旅行での体験。
 (東京に行き、人が話をするときに相互の距離や混雑の度合いが重要な意味を持つことを知った。)
 (京都の言葉と東北の言葉との違いについて、改めて考えさせられた。)

■昨日の自分の行動を、次の条件で表現してみよう。
 【三人称で】

 【二人称で】

●落語「粗忽長屋」より
「どうもすいませんです。ちっとも知らなかったもんで。兄貴にきいて気がついたんですけど、昨夜ここへ倒れちまったそうで。」
「おい、どうしょうもねえな。こいつは。おなじような人がもう一人ふえちゃったよ。ばかばかしいったらねえぜ。この人、行き倒れの当人だなんて。あ、あのね、おまえさんね、こっちへ来てね、よくごらんよ、目がさめるから。」(中略)
「なんだか顔が長えようだぜ。」
「一晩露に当たって南風が吹いたんだ。顔だってのびらあ。」
「はあ、そんなもんかな…あ、あ、あ、おれだ。やいこのおれめ、なんてまああさましい姿になつちまって、こんなこと知ってりゃア、もっとなんか食つとけばよかった。どうしょう。」
「どうしょうだなんて、泣きつらするねえ、みっともねえ。頭のほうを出せ、足のほうは手伝うから。」
「そうか、じゃアたのむぜ。人間、どこでこんなことんなるかわからねえな。こんなことで恥をさらすなんて。」
「おいおい、だめだ、だめだよ、さわっちゃこまるんだよ。抱いてみて、わからねえってのもいけねえな。よくごらんよ、おまえじゃないんだから。」
「うるせえ。よけいなこというねえ。当人が、自分で見ておれだっていってるんだ、これほどたしかなことはねえじゃねえか。いいから抱け、抱けよ。」
「なにも自分の身体を抱いて……なんだか、わけがわからなくなつちゃったな。兄貴、抱かれてるのはたしかにおれだが、抱いてるおれはいったい誰だろう。」
(「古典落語大系」三一書房)

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