第3章 表現力をのばす実践
1 主題・要旨 「主題の絞込み」
スタートとゴール
一到達点からはじめること一
●文章はスタートとゴールが大切
一人のマラソンランナーがいるとします。ゴール地点があやふやな状態でスタートを切ったのでは、彼はコースの途中で迷ったり、コースを大きく外れてしまい、ゴールまでに思わぬ時間がかかったりするかもしれません。また、コース全体の距離を十分計算してペース配分をきちんとしなければ、コース途中で力尽きる危険性もあります。文章の書き手もこれに似た問題を抱えています。
文意が暖昧で、とらえどころのない文章を書く生徒には、スタートの時点でこのゴールつまり「主題」がはっきり自覚されていない場合が多いのです。従って、より正確で説得力のある文章を能率よく書くためにも、まず「自分がいいたいこと」を絞り込ませ、明確化させる指導が必要となるのです。主題を明らかにするための具体的な指導のあり方を考えてみましょう。
●指導計画例 高等学校一年(国語1「表現」2時間)
時日 指導目標 学習内容 1 ・主題を明確化することの大切さを理解させる。 1)「主題」をはっきりさせることの大切さを理解する。 スタート ・題目から論点を多角的に引き出し、述べたいことの中心を定めさせる。 2)与えられた題目から様々な論点を連想し、書き出す。 手順 1 3)その中で自分が最も論じたい項目を決める。 手順 2 1 ・抽象的な主題を具体的に深化させ、主題文にまとめさせる。 1)友人とインタビューなどをし合いながら主題を具体的なものにしていく。 手順 3 ・主題文の妥当性を検討させる。 2)主題を簡潔な一文にまとめる。 ゴール 3)決定した主題の妥当性について検討する。 チェックリスト
スタートとゴール
●自分だけの宝物
特別な内容ではなく、自分にしか書けないことを大切にしていきたいものです。
井上一馬氏は、何を書くべきかという問いかけに対して次のように述べています。
私自身は、何を書くかについて考えるとき、次に挙げる三つのキーワードをいつも念頭に思い浮かべるようにしています。その三つとは、
「感動(及び興奮)」
「情報」
「共感」
の三つです。
私は、良い文章や本は、必ずこ
の三つの要素のどれかを一つ以上もっていると思います。
(「試行錯誤の文章教室」井上一馬 新潮選書より)
生徒自身が感じたり、考えたりしていることは、その人でなければ書けない内容を含んだ宝物であることを、折に触れて語っていきたいものです。