教育福島0004号(1975年(S50)08月)-033page

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AとMの指導記録から

小野 恭三

 

Aは男の子である。学習中に挙手をして発表することがほとんどない。しかし、知能は高く、ノートなども他の子どもに比べてよくまとまっているしテストの得点も高い。

算数の授業で文章題を与えておいて「立式できた人は…」と言って挙手させたが、Aは、挙手をしない。しかしAを指名すると、ゆっくり立ち上がりもじもじしながらボソボソと発表した。案の定、他の児童から「聞えない、もう一度」という声があった。私もしかたなくAに発表を促すと、Aは赤くなりかたくなに口を閉ざし、一言も声を発しない。そこで、Aのノートを借り「A式解き方」と黒板に書いて、他の児童の立式と比較検討させ、考え方の一つの素材にした。

また、国話の時間、物語を続む教材で、主人公の心の動きを続み取ってノートに書く学習のとき、やはり、Aは挙手をしない。しかし、ノートには、きちんと要点がメモされている。A式発表として取り上げ、話し合いの素材にした。

Mは女の子である。Aと同じく発表をしない。Mの原因は、あきらめが早いのである。学習中、少し難しい問題が出ると、考える意欲をなくし、すぐにあきらめてしまう。勉強についていけないという劣等感と、友達になにを言っても笑われるという不安が原因で「自分はなにもわからないのだ」「みんなに認めてもらえないのだ」と自分から決めつけているところが多分に見受けられる。

 

学級会での係活動組織編成のとき、Mから特別な意志表示がないという報告を受けた。私は保体係に入れてやるように指示した。すると、児童の中から「Mにはむりだ」「Mが保体係に入れば、私は他の係に行く」などという声が、期せずして起こった。M自身も自分にはむりで、できそうにないという態度を暗黙のうちに示していたが、励まして保体係にした。

保体係の仕事は、病人の世話、運動具の出し入れ、衛生検査の手伝い、出欠の調査をするなどである。ところが、一週間もたたないうちに、保体係の児童たちから「Mは、決められた仕事をなにもしないで家に帰ってしまう」とか、Mからは「保体係の人たちは、なにもやらせてくれない」などの苦情が、私の耳に入ってきた。そこで私は、それぞれの言い分を聞きながら係活動の指導に当たった。

 

また、国語科の遅れを少しでも取りもどすため、放課後を利用しMに漢字の書き取りをさせた。このときMにできるだけ劣等感を植え付けさせないため、Mだけ残さず必ず他の児童とともに残すよう心がけた。

この二人の児童に共通して言えることは、自分から進んで、自信を持ってやろうとする気力を起こさせることだと思う。

そこで、Aには学習時、反応的に見てよいものがあったら極力取り上げることにした。しかし、学習時の配慮だけでは十分でないので、特別活動の場において、できるだけ仕事を与えることにした。また、家庭訪問の際、家族の一員として仕事を分担してやらせるよう両親に協力を要請することにした。

次に、Mには、三つのことを注意し指導することにした。

 

一、学習のつまずきをなくさせること。

二、自分は、なにをやってもだめだという劣等感を取り除かせること。

三、自分のしていることは、教師や学級の友達に認められているのだと思わせること。

 

最近、AもMも、ほんの少しずつだがよい意味での変容を見せ始めてきた。なんとはなしに追われるような気ぜわしい毎日であるが、この中で、できるだけ時間をみつけ、AとMに接し価値ある時代の担い手の一人にするよう今後とも精進を重ねるつもりである。

 

(河沼郡会津坂下町立八幡小学校教諭)

 

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