教育福島0005号(1975年(S50)09月)-008page

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を図るとともに、生徒の生活すべてについて理解を深めなければならない。

生徒理解は困難で厳しい。なぜならそれは自ら求めない生徒の心に入っていく努力であり、また、生徒とはいえ独立した人格を理解するなどとは、ふそんなことではないかとも思えるからである。生徒が自発的に、教師に指導助言を求めてくる事例が、極めて少ないことは諸調査が示すとおりであってわれわれは生徒が求めてくるのを待つのではなく、積極的に生徒の生活に入っていくことが必要なのである。

生徒理解に当たって、教師は寛容でなければならない。寛容とは、異なった立場を認めることであり、変化を冷静に受け止めることであり、耐えることであって、甘やかすことではない。

高校教師としてわれわれは、さまざまな固定観念にとらわれながら、成人として生活を送っているが、心身ともに、急速に変化していく高校生を理解するには、これらの固定観念にとらわれず、多角的な物の見方が必要でありまた、自分自身をも客観視するだけの余裕がなければ、生徒との対話は円滑に進まないであろう。

生徒が、教師に厳しさを求めている事例もよく話題になる。しかし、生徒が信頼するのは、生徒に対して厳しいと同時に、自分自身に対して、専門職としての厳しさを要求する教師であることを願うからである。

生徒の基礎学力の不足、学習意欲の欠如が日常の話題になっているが、このような生徒の質的変化に応ずる態勢は十分であったろうか。生徒の怠情を非難する前に、教師自身に、正確な現状は握と、それに応ずる適切な対策が常にとられたであろうか。このような反省を背景にして、授業に臨みたいものである。

多様化した高校生の教育において教師と生徒との人間関係が持つ意味はまことに大きい。しかしながら、授業について、生徒が何を求め、何を期待しているかを的確に知ることなしには、生徒との間に望ましい人間関係の成立を期待することはできないであろう。

教育内容や指導方法の改善について数多くの試みがなされているが、その根底にあるもの、改善の成否に最も大きな影響を持つのは、教師と生徒の間のラポートである。

 

五、指導内容の精選

 

高校教育の準国民化が、量的な面で取り上げられる風潮の中で、質的な向上に関する研究が、追いつけなかったために、多くの高校生が、学習に対する興味を失っていることは、既に述べたとおりである。指導内容や方法の研究は、学校教育の質を高める上で、最も重要であり、公教育としての水準を保つためにも、絶えず留意すべきことである。

科学技術が、めざましい発達を遂げた今日においては、学校教育で教える内容は、そのすべてを含むことはできず、基本的事項を精選し、構造化することによって、その定着化を図り、その結果として、卒業後における継続学習がスムーズに行われるよう努力するのが、効果的な授業であろう。しかし基本的事項の精選についても、画一的な基準を設けることは合理的ではない。

高校教育における指導内容は、学習指導要領に示されており、その基準に従って検定教科書がある。しかしながら、学習指導要領に示される基準は、生徒の能力、適性、進路に応じて、弾力的に、適切に取り扱うよう指示されている。すなわち、生徒の実態に応じて、指導内容は精選され重点化されることになるが、その前に、当然のことながら、専門教科については、学習指導要領に示された内容の全領域にわたって理解を深め、更に具体的には、検定教科書の研究を深め、教科書の内容を熟知する必要がある。

専門教科についての研修は、変化する社会の中で、学校もその一部であることを忘れず、休みなく継続されるべき性質のものであり、教科書を唯一の教材とする授業は、生徒の学習意欲を高めるのに効果的とは言えない。

生徒の学習の状況を、絶えずチェックし、自発的に学習に取り組むよう、適切な動機づけを行うには、教科書を越えた専門教科に関する研究が重要であり、広く深い学識の中から、学力の低い生徒の指導に有効な、指導内容の精選も可能になる。精選は、比較検討の上でなされるものであって、精選が必要とされるだけの豊富な内容があって、はじめて意味を持つものであり、適切な精選のためには、その裏付けとなる該博な学識が要求されるであろう、

教師として、教える内容について、自信を持つことは、当たり前のことであるが、学力のない生徒を教える現実の中で、専門教科について、安易な取り組みの姿勢が生ずることは十分警戒しなければならないであろう。

教えるためには、その背景に数倍の知識が必要だとよく言われるように、知っていることと、教えることは区別されるべきであり、教えるべき内容の数倍の知識技能をマスターすることによって、精選についての自信も深まり確信に満ちた授業が可能になり、生徒に安心感と信頼感を与えることができるであろう。

精選に当たって、生徒の実態の的確なは握が、第一の条件となるが、ここに、生徒理解の深まりの度合が、大きな要素となる。

生徒の学力に最も適した指導内容は何か、生徒が授業に何を求め、また、何を期待しているかなどを知ると同時に、学力不振の生徒や学力不相応な要求を持つ生徒に、説得力のある助言ができるかどうかは、教師と生徒との間の人間関係が、うまく成立しているかどうかに左右されることが多い。

 

 

 


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