教育福島0005号(1975年(S50)09月)-027page

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図書館だより

 

移動図書館「あづま号」の現況

 

ある公民館のかたから「公民館より歴史も伝統も比較にならぬほど重みがあるはずの図書館が、今もって振わないのはどうしてか?」という音心味の質問をうけたことがあった。痛烈な指摘である。

事実、図書館の歴史をひもとけば、日本においてさえ、最古の公開図書館と言われる石上宅嗣の「芸亭」から数えても千二百年余の歴史を持っている。不振といわれるその原因についてはいろいろ考えられるが、その最大のものの一つは、住民の中にいまだ残っている「図書館の閉鎖性」というイメージに対する抵抗感である。明治以降の「近代図書館」においてさえ、図書館とは学者先生や学生、その他の一部特殊な階層の人々のみが利用するもの、という観念が支配的であり、戦後もそれは根強く受け継がれてきた面があった。そしてそれは、現代においても完全に払しょくされた、とは言いがたいものがある。それゆえに、戦後三十年の図書館運動は、主としてその克服の努力に向けられてきたと言っても過言ではない。「どこでも、だれにでも利用できる図書館」「住民による住民のための図書館」等々のモットーがそれを端的に示している。その具体的な現れが館内奉仕中心の、静的な、館内閲覧、資料保存のみの閉鎖的なものから、積極的な開放−公開・貸し出し−動的な館外奉仕への拡大等々の質的な転換であった。

わが県立図書館にあってもむろん例外ではない。二百万県民のだれもが、どこに住んでいようとも質・量ともに等しくサービスが受けられ、身近で親しみやすく、実生活に役だつ図書館、そのようなものにするための図書館づくりが積み重ねられてきた。そしてその一翼を担って大きな役割を果たしているのが、館外奉仕活動の先兵としての「移動図書館・あづま号」である。

二十余年、幾多の変遷をたどりつつ県内を縦横に活動している「あづま号」の存在については多くの人々が御承知と思うが、情報化社会と言われ、また生がい教育の重要性が叫ばれ、更には週休二日制の一般化に伴う有効な余暇利用の必要性が強調されている今日の社会にあって、その果たすべき役割については、ますます多くの期待と注目を集めている。事実、ここ数年来の「あづま号」に寄せられる期待は非常に大きく重いものがあり、それは貸し出しの飛躍的な伸びの一例をとってみてもじゅうぶんうなずける。最近の顕著な例としては、「親子読書運動」の爆発的な増加と、その内容のレベルアップに伴う図書館要求の質量ともの増大を挙げることができる。更に身近な例としては「巡回の回数をもっともっと多くして欲しい」「積載図書の質を高め、もっとバラエティに富んだものを持ってきて欲しい」「乗務職員の人数を増やし、図書のこと、読書のことなどいろいろアドバイスして欲しい」「駐車場と駐車時間をもっと設けて欲しい」等々、要望は多岐多様にわたり枚挙にいとまがない。うれしい限りであるが、反面大きな苦衷を感じざるをえない。なぜなら、現実は「あづま号」一台のみでの巡回であり、これらの要望を満たすためにはなお幾多の制約がつきまとうからである。ちなみに、最も能率的な巡回日程を組んだとしてもこの広大な本県内を一巡するためには最少四か月近くの日時を要するし、現在のあづま号の最大積載冊数は多く見積っても千八百冊程度というのが現状である。

このような現状にあって住民の要求にできる限り近づくため「あづま号」の効果的な運営を図るには、市町村との緊密な連携・協力関係こそが不可欠なものとなるのである。従来より、全県的なネットワーク(奉仕網)による協力体制の早急な確立の必要性については指摘されてきた。具体的に言えば県立図書館は“図書館の図書館”的な存在であって、全県的な視野から間接的なサービスを行うべきである。それに対して、市町村立図書館は、その自治体の住民に直接サービスを行う第一線図書館としての役割を持つ。したがって、その役割・機能の分担を明確にした上で協力体制を確立すべきであるということになる。このことは、確かにより効果的なサービスを行う上で必要なことであろう。そしてここで言う県立図書館の「間接的サービス」とは市町村の第一線図書館が行う活動に対して、側面から協力援助するということであり、また未設置自治体に対しては、図書館サービスの恩恵に浴すことのできない人々のために、サービスを代行し、あわせて図書館設置の促進を図ることである。

いずれにせよ住民の図書館要求はますます大きくなる反面、図書館施設の不備がまだまだ目につく本県にあっては、「あづま号」の一層の充実が望まれる。それゆえにこそ、読書普及活動の意義の再認識を望み、市町村の読書施設のより一層の充実を期待しつつ、「あづま号」のより効果的な運営を真剣に検討してみたいと思うのである。

 

 

 


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