教育福島0005号(1975年(S50)09月)-033page
「あゆみ」を生かして
猪狩 司
本校では、生徒の個人的目標を「あゆみ」として「生活記録」を書かせてきている。
これは、生徒一人一人をよく知ることが教育の基本であり、同時に学校と家庭との連携を深める上で、極めて重要であると考えたからである。
生活記録の内容は、日常具体的な生活行動や学習面の実態を自己の計画と合わせて習慣化し、より向上させていく「自己教育」「自己変容」の立場から立案されている。
内容の一部を紹介すると、次のような項目があげられている。
1 月曜日の「例」
この他に、行動、特技、体力面及び長期休業中における計画や実践項目の記録欄が設けられており、体力については具体的に数字によって自己の限界に迫れるようにして目標を明確にっかませ、努力の跡が常に比較できるように生徒に提示してある。
2 週の「例」()月()日()週
○自己評価
A…計画の八十パーセントできた。
B…計画の五十パーセントできた。
C…できなかった。
○今週の反省
学習…家庭科の製作に時間がかかり、他教科は余りできなかった。
体力…朝のトレーニングを二日なまけた。
特技…珠算三級に合格した。
生活…手伝いは予定どおりできたが、朝寝坊をした。
○連絡
・家庭から
朝の起床が遅く、準備のため家庭に迷惑をかけます。
・担任から
家庭の作品を作るのは楽しいですね。できるだけ能率をよくして、就寝はいつもの時間にしたいですね。
○明日の予習課題、その他の連絡
この「あゆみ」は、生徒に必ず週一回は保護者と担任に見せることになっている。生徒と保護者、担任とがお互いの考えを述べ合い、生徒が個人目標にどう迫っているかを援助したり励ましたりする場であり、同時に三者の暖かい心の通じ合う場として生かされており、相互に信頼関係を深めているものである。
また、親と教師が具体的な一人の子供の生き方を通して、目的、目標を明確につかみ、望ましい人間像を思索し語り合う場ともなっている。
しかし、「あゆみ」が、生徒の目的とする自己実現を図る手段としての意味を持つ以上、生徒自身の能力に合った個人目標を立てて、自己実現をしていく態度を持つような指導がなされなければならない。毎日記録することが時間の浪費であると考える生徒もあれば一週間の記録をまとめて反省し、自己評価をして、自分をより向上させようと真剣に努力している生徒もある。
毎朝、係生徒が、担任の机上に置いたときから一日の生活が始まる。読む楽しみの反面、読み通す苦痛もある。だが昼休み返された「あゆみ」を、窓辺に寄って読んでいる生徒、にやにやしている生徒、だれにも知られたくない心のうちなど一喜一憂はあろうが、その中に記録された内容から判断できることは「だめな子などいない」ということである。この子供たちをどう育ててやればいいのか、悩みでもありまた、楽しみでもあって、教師の使命感を痛切に感じさせられる一ぺージである。
(双葉郡川内村立川内中学校教諭)
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