教育福島0008号(1976年(S51)01月)-016page

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◆講評◆

 

(一) 児童の学習状況観察と児童理解に立った研究で、しかも、その研究成果を児童の学習に生かした価値の高い実践研究である。

(二) 具体物から抽象化していく学習指導課程の工夫がよくなされ、小学校一年の数学的な考え方を重視した学習指導のあり方に多くの示唆を与えている。

(三) 学習資料の製作、活用の工夫に努力が払われ、その学習資料がその場限りのものでなく、今後の学習指導に繰り返し活用できるようになっている点を高く評価したい。

(四) 研究期間は半年程度であるが、研究計画の段階、実践の段階とよく計画的に進められ、精力的な研究である。一紙面の関係で、膨大な資料を紹介できないのが残念である)

(五) 研究テーマの表現は、もう少し検討し、吟味することが必要であった。「指を使わないで…………」という表現だと、なにか「指を使ってはいけない」というようにもとれるので、研究論旨から見て、「一年における計算力を高める学習指導法の研究」というような表現も考えられよう。

(六) 仮説は、仮説設定の手順を一応とっているように見えるが、文献研究なども含めて、理論的に立てる必要があろう。仮説として設定するのに問題があるなら、研究課題でもよい。

 

特選論文 2)

数学的な考え方を伸ばす

学習指導法の研究

郡山市立安積中学校教諭 桑名 孝雄

 

一、研究の趣旨

 

数学科における本校生徒の実態として、「教研式新観点別中学K形式学力診断検査」数学一年の結果(正答率)を見ると、次の表1のとおりである。これによると、「数学的な考え方」の領域が他の領域に比べて著しく劣っていることがわかる。そこで、誤答者への追跡調査と、解答分析を行ったところ次のような問題点があることがわかった。

(1) 何を基に、どのように考えればよいのか、という演えき推理そのものの考え方ができない。

(2) 問題を直観的にとらえ、解決の見通しを立て、筋道を立てて考えていく方法が身についていない。

(3) 創造的学習を進める上で、その創造の根底に必要な基礎になる概念や法則が知識化され、それらが体系づけられ、更にそれを適用していく考え方が身についていない。

(4) 新しい問題に直面したとき、既有の知識・技能を基にして、観点を選んだり、変えたりして、自由に思考していく多様な考え方ができない。

などがあげられる。しかし、数学的な考え方を伸ばすためには、ここに挙げた問題点だけでなく、学習指導上にも問題がなかったわけではない。そこで、授業を次のような観点から探究し直していくことが必要ではないかと考えた。

(一) 数学的な見方・考え方について

(1) 生徒一人一人が学習問題をどのように見て、どのような筋道を立てて解決していこうとしているか。

(2) 教材をどのように見て、どのように扱い、その中に数学的な考え方がどのように生かされているか。

(3) 生徒一人一人が教科書にある問題を解くだけでなく、自分が数学を作っていくという考えを持っているか、

(二) 数学的意味の洞察について

(1) 根拠となる事柄が何であるかを知り、それを基にして理論づけがなされているか。

(2) 生徒一人一人の着想と、それに基づく数学的な手続きを組み立てているか。

(3) 新しい概念形成に当たって、既習の概念の中から、何を引き出し、何を捨てていくかを考えて、問題に当たっているか。

(三) 創造的学習の方法を取り入れることについて

(1) 生徒自身が数学を作るんだという主体的な学習過程を重視しているか、

(2) 既習内容の数学的なきまりや、数学的性質などを明らかにし、目的にあった処理を施し、発展させようとしているか。

などである。学習の対象をどのように見させるか、数学的な見方・考え方をどのように発展させるかは重要な問題である。それには、発見的・創造的学習が成立する指導内容の視点を明らかにすることができれば、学習指導の改善において重要な意味を持つものと考えられる。以上のようなことから、学習過程に現れる生徒の着想と、それに基づく手続きについて数学的思考の様相を追求し

 

表1 教研式学力診断検査の結果

表1 教研式学力診断検査の結果

 

 

 


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