教育福島0018号(1977年(S52)01月)-008page
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特選・研究論文
探究しようとする能力を育成させるには
問題構成の段階でどのような演示実験を行うべきか
いわき市立平第一小学校教諭 吉岡栄一
一、研究の趣旨
授業で児童に問いかけると、すぐ教科書を見、教科書の域を出ない狭い考え方で消極的な学習が進められることが多い。そこで主体的に学習へ取り組ませるため、問題構成の段階で児童が問題をとらえ解決しようとする意欲や能力をほり起こすことが必要である。
このための一つの手だてとして、演示実験をとりあげ、どのような因子をもつ演示実験を提示すれば、事象に疑問や矛盾を生じ、蓄積されていた内部情報をあらゆる方向からゆさぶり、ある観点から関係づけ、意味づけを行い探究しようとする能力にまで高められるかを明らかにしようとした。
二、研究の内容
(一) 研究仮説
問題構成の段階で行う演示実験に「変化・要素・新しさ・矛盾・突然」の五因子を含む実験を行えば、目的意識は高まり、探究しようとする能力が養われる。
変化−比較(思考)によって両者の相違がとらえられる状態にある。
要素−事象に既有の学習内容等が含まれている。
新しさ−先行経験の延長にあり、ある要素を欠いた未知の事象である。
矛盾−既習の本質的な知識が、そのままでは適用しないかのように思われる精選された事象である。
突然−事象が短時間に起こり、刺激の強い事象である。
(二) 研究の概要
(1) 探究の過程による単元の構成
仮説を検証するため、単元全体を問題構成・資料収集・資料の処理解釈・一般化の四段階とし、情報収集の段階は、問題は握・仮説設定・計画検証・結論の過程をとる。この基本過程の問題構成の段階に「観察・推論」、矛盾に気づき既有知識をもとに整理を行う過程に「推察力・批判力・洞察力」の科学の方法や思考力の各要素(教育福島'75 6月号P.二三)を位置づけた。
また、転移力をもつよう単元の各指導内容を貫く核ともなるべき事項を見い出し、これを基盤に、単元を一つの探究過程として構成した。
(2) 問題構成の段階における演示実験
視覚に訴える演示実験は、情報量も多く問題は握を容易にし、探究しようとする能力も高められる。本研究においては、演示実験に付与する五因子のいずれかを欠いたとき、探究しようとする能力にどのような変化を与えるかをみようとした。このため探究しようとする能力の尺度を左表のように定め、能力を構成する三要素の関係を図示し、相対的に、どの因子が欠ければ、能力のどの要素に欠陥が生じるかをとらえることにした。検証のためとりあげた単元は、「水溶液の性質」「酸素と二酸化炭素」(五年)で、四つの演示実験を実施した。
(3) 考察とまとめ
ア、五因子のうち、変化あるいは突然の因子と他の三因子を実験に保持させれば、能力の各要素間の結合は強く、科学的能力完全型が多くなる。
イ、演示実験に新しさ・矛盾の因子を欠くことは、内発的能力不足と無関心型が多くなり、学習の目的意識を高めるためには欠かせない因子である。突然と変化の因子は事象に対して注意力を増すには欠かせない因子である。
ウ、要素(先行経験)だけでは、演示実験によって科学的能力を育成することが不可能で、他の因子も必要である。
エ、一つ一つの因子のはたらきは、他にどの因子が関係するか、何時めであるか、先行経験の多少等によって左右されると考えられる。
◇講評◇
(一) 論文としてまとまりがあり、検証の仕方も独創的で妥当である。
(二) 研究の着眼が優れている。演示実験について多くの示唆を与えているが、演示実験そのものが吟味され、提示の方法そのものを具体的に検討する必要があると思う。
(三) 集団の変容もさることながら、一人一人の児童にもっと目をむけるような研究であってほしい。
〔能力態度の基本型〕
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〔探究しようとする能力尺度〕
A−内発的な能力・態度の尺度
0−解決する気がほとんどない。
1−友達となら教えられながら。
2−友達と助け合ってぜひ解決したい。
3−自分一人ででもぜひ解決したい。
B−推理面の能力の尺度
0−的はずれ。
1−既有知識はあげられず,直接的に疑問が発想されている。
2−類似の経験や科学的概念と直接関係づけて疑問が発想されている。
3−科学概念等から論理的に引きだされている。
C−情報の解釈能力の尺度
0−面接法でもその意図がわからない。
1−あげられた先行経験に一貫性がない。
2−じゅうぶんとはいえないが一貫性ある。
3−疑問に直結した先行経験である。
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