教育福島0047号(1979年(S54)12月)-034page

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守田邦子

 

無情に鳴り響く目覚まし時計のベルの音を止め、また布団にもぐりこむ。

 

無情に鳴り響く目覚まし時計のベルの音を止め、また布団にもぐりこむ。

「もう朝か、つらいなあ。」

このつらさは睡魔のせいばかりではない。自分自身の力不足からくるいらだちが含まれている。生徒たちにとって貴重なこの時期に、こんな担任でいいのだろうかと。

一日の生活で、私の最初のたたかいは、いかに潔く飛び起きるかである。

教師になってから、朝がくるのを待ちわびた日がどのくらいあっただろうか、などと考えながら校門をくぐる。

校庭でランニングをする生徒たちの

「おはようございます。」

の声で、ほんとうの目覚めがくる。その生徒たちの中に、卓球部に席を置くM子がいる。

身長百五十五センチ、体重七十五キロ、心臓が右にある。つまり内臓がすべて逆位にあるという、私が初めて出会った特異体質の娘である。部活動でのつらさを、班ノートにちょっぴりのぞかせることがある。・

『私の体質じゃ校庭を走るとき、みんなに追いつけないのですが、きようはがんばってついて行きました。きのうの練習を紹介すると、マランンコース一周(坂の所でみんなと離れてしまい、はずかしかった。)校庭外周をおんぶして一周一私はおぶる役だけ。だっておぶる人がかわいそうだから志願したの。つらかった。)夏休みから少し、いや多くなまけていたので、きのりの練習はとても効きました。でも走った後はつらいけど、気持ちがいいです。先生も走ってみたらどうですか。』

夏休みが終わると、恒例の校内水泳大会が行われた。出場すれば点数になる学級対抗である。男子生徒の目を意識して水着になるのをいやがり、不参加の多い女生徒の中で、M子は、みずから進んで二十五メートル平泳ぎに出場。泳ぎきれるのかと思っていたら、息苦しそうに途中で立ち上がってしまった。ゴールにたどり着き、プールから上がる彼女を見て、ひそかに拍手をおくることしかできなかった。M子のがんばりと明るさが私を支えている。どれだけ救われているかと、気づかされた一日だった。

そんなM子にも、悩みがないわけではない。先日、彼女の悩みを読んで、なにもしてやれない自分に、腹立たしさを感じた。

『これは、私が一番いやな話なんですが、先輩からユニフォームのショートパンツを、大きいからというので譲ってもらったのです。家へ帰り、はいてみるとピチピチなんです。このときこそ、自分の体がいやになったことはありません。太ももに赤く手あとが付くほど、たたいてしまいました。先生は、スマートでいいですね。』

赤ペンを持ったまましばらくぼう然。慰めのことばは、すべて薄っぺらに思われて、返事のことばが、とうとう見つからなかった。

M子の悩みのつらさを思えば、私のつらさなど、こっぱみじんに吹き飛んで行ってしまう。

M子よ。いつまでも明るく、ますます思いやりのある娘になあれ。

私も負けない。

また、朝がくる。

新しい一日が始まり、私のたたかいも始まる。

汗を流している生徒たちの姿を見てふと思う。

明日は私も走ってみようと。

(いわき市立湯本第一中学校教諭)

 

球技大会にむけての作戦会議

球技大会にむけての作戦会議

 

 

 


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