教育福島0053号(1980年(S55)08月)-036page

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わたしの研究実践

 

課題学習への糸口

 

福島県立富岡養護学校教諭

佐藤功

 

一 はじめに

 

重度・重複障害児といわれる子供において、課題学習への取り組みの糸口を見い出すことは、大変困難なことである。それは、個々の子供のあまりにも異なる個性のためだけでなく、教師の子供に対する洞察力の深さも問題となることであろう。そして、従来の教育内容や、方法をかなぐり捨て、人間形成の初期段階の理解からはじまり、子供に学び、工夫し、考えるという教育的なかかわりこそ課題学習への手がかりを見い出すために大事なことであると思われる。

昭和五十三年度以来、本校でも、重度・重複障害児に対する教育を実践してきたわけであるが、そのかかわりの中でどうにか課題学習への糸口をつかみかけている事例もあり、この教育ヘの研究態勢も固まりつつある。

ここではそれらの事例の中から筆者のかかわった事例を取り上げ、主題ヘの考察を加えたい。

 

二 事例(M・W女十歳)

 

本児は問題行動の多い子供である。極度に強情をはる。食物を荒らす、弄(ろう)便、徘徊(はいかい)癖、また、学習あるいはその他の集団行動の場からの逃避などがあげられる。これらの現れ方は爆発的であり、情緒的な歪みが感じられる。

(一) 生育歴

・遺伝関係-母の妹がノイローゼで入院したことがある。

・胎生期-母二十四歳時妊娠、三か月で流産しかかり一週間入院し、なんとかもたせる。

・出生期-T医院にて出産、熟産、体重三三〇〇グラム。

・乳幼期-人工栄養、哺乳力は普通であり、疾病ひきつけなどはなかったが夜泣きが多かった。離乳開始は五、六か月から始めたが、受けつけず、完了は一歳六か月であった。発歯は普通。首のすわり五か月、えんと八か月、這い一歳、栄養状態、発育ともよかったが、笑うことがなかった。

・幼児期-言語ババ、ママ(二歳)、歩行一歳五か月、偏食あり(すっぱい果物など)、疾病二歳時風邪で三十九度の発熱あり、夜尿あり。

昭和四十九年三月一日、T学園入所

(二) 諸検査の結果

(下表1参照)

(三) かかわり当初の問題点と指導の見通し

教室に落ち着いていることはなく、やたらと戸外に出たがり、要求が受け入れられないとつねるなどの他害行動や放尿するなどパニック状態に陥り、情緒の安定を失ってしまう。また、ちょっと目をはなすと食堂に入り、つれもどそうとするとテーブルにしがみつきはなそうとしない。その時の握力は大人も負けるくらいであり、指は成人男子のように節くれだっているが、巧緻性は稚拙で手指の機能の開発はされていない。このように学校にあっても施設での生活でも常に不安や緊張状態が続いていた。

 

表1 諸検査の結果

・2歳時、東京女子医大で心理検査、1歳程度の発育で、自閉的傾向が見られると診断される。 E.E.G異常なし。 (昭47)

・E.E.G(3回目)発作波ばかり、投薬をはじめる。 (昭48)

・遠城寺式乳幼児分析的発達検査 (昭和48.11.20)

移動運動 2:0 情意の発達 0:11

手の運動 1:3 知的発達  0:9

言語の発達 0:11 社会的発達 1:0

・遠城寺式乳幼児分析的発達検査 (九大小児科改訂版) (昭54.12.13)

移動運動 2:10 対人関係 1:10

手の運動 1:10 発語 0:7

基本的習慣 2:1 言語理解 1:1

 

 

 


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