教育福島0060号(1981年(S56)04月)-027page

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随想

 

早春句日記

川 瀬 正三郎

 

る。空の色も柔らかな青味を帯び、草木の芽も蕾も日増しに膨らんでくる。

 

今年は例年になく寒さがきびしいとこぼしながらも、二月の声を聞くと、明らかに三寒四温の現象を呈しながら徐々に暖かくなってくる。空の色も柔らかな青味を帯び、草木の芽も蕾も日増しに膨らんでくる。

 

二月八日。藁谷君、筑波大学第一群に合格の報もたらす。続いて古和田君も同大学第三群に合格したという。幸先きよき門出である。

 

春めくや君の合格聞きしより

 

三月一日。三年間励まし、いつくしんできた三百六十七名の生徒が巣立って行く。厳粛に挙行される卒業式に臨みながら、過ぎ去りし日のあれやこれやを思い出している中に、ふと目頭が熱くなってくる。

 

卒業生羽ばたけ春の大空へ

三月二日。白河第二高校の卒業式である。昼間働き、夜は学校に通うという生活は、なかなか辛い苦しいことである。

それに四年間も耐え抜いた十八名の諸君の一人一人に「御苦労さん。君たちの努力は必ず報いられるよ」と呼びかける。妻子ありながら勉学した三十一歳の鈴木利美君のがんばりにはほとほと頭がさがる思いである。

 

卒業生立ち去り難し夜学の灯

 

三月七日。午後より三年生を受持つた先生たちと甲府に旅行す。黒磯あたりより梅の花が見られる。塩山市郊外乾徳山恵林寺に着いた時は、五時を少し過ぎて、庫裡の門はもう閉じていた。夢窓国師の名庭が見られないのが残念である。

 

梅の香や禅寺の門深く閉ず

 

三月八日。甲府善光寺の大伽藍をバスの窓より拝し、昇仙峡に行く。豪壮な仙蛾の滝のしぶきを受け、渓流巌石の小径を下る。

 

春寒や巌打っ音の水高く

 

天神森で再びバスに乗り甲府の市街に下る。鳳鳳三山、甲斐駒が岳、北岳等南アルプスの大障壁が、バスのフロントグラス一杯に拡がる。曾遊の山々なれば、なつかしさ限りなし。

 

あいさつを交す峰女雪光る

 

御坂峠のトンネルを抜けると、河口湖の湖水はるか上空に、富士山が威容を現す。東海道方面より見る姿とまた違って、傾斜の反りの、より大きな北斎の「凱風快晴」に見られるような優美な曲線を描いている。

 

春光る湖に小舟や大き富士

 

三月二十一日。お彼岸の中日で、菩提寺を参詣した後、実家へ行く。甥は来月十九日結婚式をあげる予定だが、お祝に一句寄せる。

 

花の香の盗るるごとき幸せを

 

同僚の阪路裕先生も、この二十九日御結婚されるのはお目出たき限りである。

 

先がけて幸せの花咲き初むる

 

三月二十二日。近所の木村、関谷両御夫妻私方夫妻の六人で京都に行く。北野天満宮では、満開の白梅紅梅に酔い痴れ、広隆寺では弥勒菩薩に魅了される。

艶めきて紅梅似合う天満宮

 

三月二十六日。京都旅行より帰ってみると、新聞に教職員の異動が発表されていた。日ごろ睦みあった先生がたと別れるのは本当に寂しい。行かれる先生がたにつたない句をお贈りする。

 

別るるを惜しむや関の春の湖

 

名事務長梅の香りを一身に

 

(福島県立白河高等学校教諭)

 

 

 


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