教育福島0078号(1983年(S58)01月)-033page

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随想

 

ずいそうずいそうずいそう

 

きっかけを大切に

 

星和雄

 

星和雄

 

「学校があって、子供がいて教師がいれば学校教育はどの地方であってもそう変わるものではない」これが従前の教育に対する考え方でした。

会津から離れ、県中の石川小学校で三年程勉強させていただく機会を与えていただきました。分かったことは、「教育は、学校、子供、教師の単なる結びつきでなく、その地方の住民の期待や要請、それに地方特有の環境の違いなどが大きくかかわりを持って営まれている」ということでした。更に学校を組織するスタッフ、教師集団のモラルによって大きく教育の方法が変わることをも痛感しました。

学習指導においても、教材があり、子供がいて、教師がいれば、教育活動は成立するが、問題はその三者のかかわりであり、教育課程の改善は、これにメスを入れたとも考えられます。

新学習指導要領の実施に移って、小学校では三年目も終わろうとしています。私たちは、この改善の趣旨、精神を十分理解して現場での指導展開を図っていかなければと願っている一人です。

 

人間が物事に没頭するとき、なにかのきっかけがもとに没頭することが多いのではないでしょうか。そのきっかけは、ある物や人との出会いであったり、感動であったりします。そして、その感動が引き金となって分かりはじめ、興味が深まり、成果を生み、夢や希望へと大きく発展していくことは、大人でも子供でも多くあるものです。

私も二十年前の夏、山路でふと出会った美しい蝶がきっかけで、生物に関心を持つようになりました。

休日にドライブをし、ふと止めた沢のほとりの木の枝に、美しい色で輝く小さな蝶が目に止まり、帽子で捕えました。その美しさは異様な程でした。持ち帰って、図鑑で調べようにも、当時の私には容易に見つけることができず、何日かしてやっと判明しました。

蝶は、シジミチョウのなかまで「アイノミドリシジミ」という蝶でした。

こんな蝶との出会いから、色の美しさと神秘さに感動し、蝶を調べてみようという興味関心を持ち採集するようになりました。そしてオオムラサキ、スミナガシ、メスグロヒョウモンと数多くの美しい蝶と対面することができました。これをきっかけに生物全般に興味関心が高まり、現在では野鳥との出会いを楽しみに生活できる自分を、最初に出会ったあの小さな体のミドリシジミに感謝しています。

 

こんなことから学習指導について考えてみると、「出会い」「感動」「興味関心の増大」「分かる喜び」と学習を支える要素がきっかけを通して生まれてきているように思えるのです。そして、この事が学習指導過程にもあてはまるような気がして、子供に、なにかのきっかけを与える学習、きっかけを子供がつかまえることのできる素材を求めて指導に当たっているつもりです。

現場では、ゆとりと充実、授業の質的転換を大きく迫られていますが、私は、子供にやる気を持たせること、子供自らが学習に取り組める手立てとして、やろうとするきっかけを与えるような教材の選択と、子供を感動に導く素材の教材化、わかる喜びの味わえる指導法の追求こそが、教える授業から育てる指導への質的転換ではないかと考えています。

四十五分の授業の中から、子供たちがやる気を起きすための教材研究に努め、何とかそのきっかけを与える授業を夢みてがんばりたいものです。

(田島町立田島小学校教諭)

 

未知との出会い(4年理科)

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