教育福島0080号(1983年(S58)04月)-030page

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随想

 

心技一体

 

芳賀利允

 

芳賀利允

 

放課後、今日も、「ヤー、トー」という気合の入った掛け声が、山間の武道館から聞こえてくる。

昭和五十六年九月二十二日、その日は、文部省指定格技指導推進校としてその成果を世に問う日であった。

本校は、剣道指導を通して、「豊かな人間性の育成を図る」ことをめざし、昭和五十四年以来、研究を進めてきたわけである。私が転任したのは、研究三年目に当たる昭和五十六年であり、剣道に関しては、ずぶの素人であった私にとって、研修主任という役割りはかなりの重荷であった。

「心身の練磨を通して旺盛な気力を養うとともに、礼儀や信義を重んじる生徒を育成する」という本校剣道指導のねらいを達成するために、「興味・関心を高め、技能の向上を図る指導」を研究主題として、教職員はもとより生徒を含めて全校挙げての態勢つくりをした。

その間にあって、県教育庁保健体育課、南会津教育事務所の諸先生方の適切なる御指導は、研究の方向づけとその推進に、誠に心強いものであった。そうしたことが支えとなって、授業研究、研究協議会、研究推進委員会などがスムーズに運営できたことは、なににもましてありがたいことであった。研究集録や研究資料の取りまとめに当たって、時のたつのも忘れて、納得のいくまで協議したことも、今となってはなつかしい思い出となった。

伊南村は伝統的に剣道が盛んで、村の剣友会が中心となり活発に活動しており、保護者や地域住民の教育に対する関心も高く、剣道指導には大変恵まれた環境にあった。このことも研究推進には、大いに活力を与えてくれたこ.とはいうまでもない。

このような経過をたどり、格技指導推進校としては、冬期の積雪などの自然条件を考慮し、全国で最初に公開発表会をもったわけである。これからの学校体育としての剣道のあり方についての一つの示唆を与えたのではないかと、ひそかに自負している。

研究を通しての変容については、生徒は、授業への姿勢が真剣となり、主体的に学習に取り組めるようになってきたことである。また、学習活動のすべてにおいて、他を尊重する態度やあいさつも著しく向上してきている。教師も指導力の向上や研究の方法・まとめ方などはもちろんのこと、共通理解に基づく、一致協力体制の大切さを学びとった。なによりも得がたい収穫は教師と生徒の人間関係が更に親密となったことである。こうした親密感、信頼感はすべての教育活動のよい基盤となっている。

これらの成果は、発表二年後の研究同人が数少なくなった本年度も、剣道に寄せる生徒たちの変わらぬ熱意と、格技研究のみならず現職教育に寄せる.教師群の取り組みの姿勢に見ることができる。

児童生徒の健全育成をはかるためには、少年期の発達課題や学校での育成の役割りをおさえ、すべての児童生徒が誇りと充案感のもてる学校生活を確立し、全教職員の一致した協力体制のもとに、健全育成を達成しなければならないと考える。

本校が研究を通して、生徒、教師とも充実感のもてた学校づくりが図られたこと。また、剣道授業での具体的な到達目標をもたせて、頑張らせ耐性を培った指導などは、今日求められている健全育成の重要な要素であると思う。

今日も辺りにこだまする「ヤー、トー」の声は、伊南中学校教育の象徴として、私たちは誇りとしている。

(伊南村立伊南中学校教諭)

 

まず姿勢を正して

まず姿勢を正して

 

 

 


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