教育福島0081号(1983年(S58)06月)-030page
グループ研究
リコーダーを通した音楽教育と教材開発
いわき地区リコーダー研究グループ
はじめに
リコーダーは、その音色や表現上の特質から、長い間教育用楽器として広く取り扱われてきている。しかし、実際の授業においては、この楽器のもつさまざまな長所が十分に生かされているとはいえず、次のような問題点が指摘されている。
(1)リコーダーを通して音楽の本質に迫る教育は展開できるだろうか。
(2)リコーダーの教材や指導法をより創造的に発展させることはできないだろうか。
(3)情報やけん騒にあふれている現代において、リコーダーは生徒の興味や関心からすでに遠い存在ではないだろうか。
私達はこれらの原因を先ず教師自身の専門性の欠如にあると考え、リコーダー奏者であり、東京都立北園高校教諭でもある矢沢千宜氏の御指導を仰ぎながら、リコーダーおよびその音楽を研究しようとした。
一 教育用楽器としてのリコーダーの利点
(1)発音そのものが容易である上に音色が素朴、純粋である。また十分な音量を持っている。
(2)楽器としては安価に入手でき、取り扱いも容易である。また大部分の生徒が一通りの経験を持っている。
(3)長い歴史的背景をもち、奥行きが大変深い。したがって生徒の能力に応じた指導ができる。
(4)ポリフォニー、ホモフォニーともにそれらの音楽の特質に合った表現を十分かっ効果的に果たすことができる。
(5)一斉授業のみならず、個人練習やグループ活動により、学習内容に変化や発展をもたらすことが可能である
(6)個別指導等を通して、個々の生徒への理解を深めることができる。
二 研究目標
(1)リコーダーとその音楽を正しく認識し、従来の指導法の改善をはかり、学習効果を高める方法について考える。
(2)奏法研究、アンサンブル等の実践を通して作品研究をする。
(3)学校や生徒の実態に応じた教材を研究し開発する。
三 研究内容の概容
(1)奏法研究
ギースベルトリコーダー教本(日本ショット版)により基礎的奏法の研究が進められた。この教本は全くの初歩から高度な曲まで短い二重奏の形でできている。二人一組になって練習を進めるが、単純な楽曲構成から多様な学習ができる。
ブレス、フインガリング、プレスコントロール、アーティキュレーション等が重点的にとり上げられた。
(2)合奏研究
全体を四名を一組とする三組のグループに分け、.作品研究、合奏研究等を行った。対象となった作品は次の通りである。
1)ドン・アドリアーノ・バンキエリ
(一五六八〜一六三四)作曲
(カンツォーナ集)
2)ルートヴィヒ「ゼンフル」
(一四八六頃〜一五四二頃)作曲
・Im Maien ・Tandernac
・Das Glaut zu Spyer
3)ミヒァエル・プレトリウス
(一五七一頃〜一六二一)作曲
「舞曲集」
これらの曲は、それぞれの楽曲の様式の典型を示しており、曲によっては声楽との重複も可能である。技術的にもさほどの困難点もなく、相互に聴き合いながら進めてゆく合奏練習においては、非常にすぐれた教材である。
(3)教材開発について
私達がリコーダーを授業で扱うのはリコーダーそのものの学習が目的ではない。この楽器をなかだちとして、音楽そのものの美しさを体得させることが真の目的である。したがって、限られた教材だけではなく、できるだけ広範な教材の中から学校や生徒の実態等にふさわしい教材を選択してゆかなければならない。