教育福島0081号(1983年(S58)06月)-031page
1)教材開発にあたっての留意点
(ア)技術的には平易で音楽としてしつかりしたもの。
(イ)広く授業で活用するために、今回はソプラノとアルトを中心とした編成とすること。
(ウ)高校生の心身の発達にふさわしいものであること。
(エ)難易度に幅があり生徒の能力に応じて活用できること。
2)教材選択の範囲
教材を既成の曲集からのみ求めるのではなく、その範囲を拡大してゆくと次のような諸分野が考えられる。
(ア)ルネサンスの声楽曲
声楽曲のスタイルをとっているが実際の演奏においては声楽と器楽が混在する世界である。したがって声楽曲の形で残されている楽曲の中からリコーダーの音域に合わせて演奏することが可能であるし、声楽と重複させることも可能である。またこの時代の作品は、各パートが簡単であるが完全であり、音楽としても美しい。
(イ)バロック音楽
本来は器楽の世界であるが、声楽中心の音楽から器楽中心の音楽への架橋的時代でもあるので、ポリフォニーとホモフォニーが混在している器楽曲の多くは上二声をリコーダーで演奏し、それに通奏低音を加えた形として使うことができる。
(ウ)現代音楽
ロマン派音楽のように極端な感情表出を持たない現代作品、たとえばバルトーク、カバレフスキー、コダーイらの子供のための作品や教育用作品に教材としてふさわしいものを見出すことができる。
また現代曲のもつ明快なリズムや独特のハーモニーは教材として大いに利用すべきである。
各国の民謡
(エ)各国のほとんどの民謡がリコーダーで演奏できる。これは民謡とリコーダーがともに素朴さ、純粋さという共通の基盤を持ったのではないかと思われる。二部、三部等の合唱曲は移調するだけで教材となり得る。ただし、イタリア民謡やフランス民謡曲として完成されたものは除いた方が良い。
(オ)舞曲
中世から現代にかけて、ほとんどがリコーダーのレパートリーとなり得る。
(カ)フォーク
歌詞よりも旋律が優先しているものの中から教材を見出すことができる。
このような観点から教材として開発したものを別冊研究資料に収録した。
四 研究結果
これまでの研究から、次のような点が明らかになった。
1)これまでは各自まちまちだったリコーダー及びその音楽に対する認識や技術が、実習を伴った研究を深めるに従い、ほぼ一定のレベルに到達することができた。その結果、リコーダーの楽しさや、同属楽器のアンサンブルによる美しさを自ら創り出す喜びを体験できた。
2)合奏研究の中から、ハーモニー、アンサンブル、時代様式、奏法上の特徴等を知ることとなり音楽全体を眺める目を養うことができた。
3)クルムホルン、ランケット等ルネサンス時代の楽器を実際に演奏によって体験してみると、この時代の音楽は現代人の概念よりもずっと自由で広がりのある世界であることがわかる。このことからリコーダーに打楽器や声楽を加えるなどの工夫によって生きた音楽としてとり上げることができる。
4)不得手な分野はどうしても消極的になりやすい。教師の理解や経験が深まってゆけば学習指導にも積極的になり指導上の創意や工夫へとつながってゆく。
5)教材開発については、教師自身が自己の研究や経験に裏付けされた自由な考えの中で創意工夫してゆく目を持つべきである。今回の研究から教材選択や開発の手がかりとなる重要なポイントを得ることができた。
6)リコーダーは安易な楽器ではない。謙虚に研究するに価する完成された楽器である。
五 今後の研究について
1)各学校の授業における諸問題については、すでに述べてきた研究に予想以上の時間を費したため、研究授業や情報交換を持つにとどまった。各自の今後の課題である。
2)すべての楽器の修得について言えることであるが、短時間でも毎日継続することの重要さと困難さを痛感した。教師自身が日常の中でこのような習慣を持続することが大切である。
3)リコーダーは、その特質からギターと組み合わせることがのぞましい。
おわりに
今回の研究によって、器楽音楽のもつ広く大きい世界を知る手がかりを得たことは大きな収獲である。またグループ研究であったことから、地区の教師間の連帯感を強め、共通理解を深め、相互に啓発し合うなど、本来の目的以外にも大きな意義があった。
しかし、種々の制約の中で行う研究であるから、残された問題も多く、稚拙な内容であることも否めない。
これまでのことを基として、今後も更に研究を深めてゆきたいと考えている。
(代表 桐原岱純)