教育福島0093号(1984年(S59)08月)-025page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

の習慣として、これらのことは身についていなければならない訳ですね。私も習慣化するまではきびしいです。徹底して教えこみます。何故なら小学校六年間の学習の基盤は、一年生で作り上げられるものがかなり多いためです。

私は四月に父兄と約束しました。子供さんを預る気持ちではなく、学校にいる間、自分の子供とするへと。当然、言葉づかい、礼儀、やさしさ、真剣さ、への注文や期待は大きくなります。途中で投げ出したり、怠けると、パシッとおしりに手がとびます。

ところで、三日前、職員朝の会から帰ったら、教室がシーンとしていました。子供達は、自分の力に応じて一人勉強をしていたのです。ぐっと胸がつまりました。早速、全員の頭、顔、背中、所かまわず私の手がのびました。「すごい」「よくがんばった」「かわいい」「頭いい」「大好き」など、私の持ち合わせている、あらゆるほめ言葉とともに。

ときには、これほどきびしくしなくてもと、手をゆるめそうになることもあります。しかし、心とは反対に態度は、おにを保っています。

いまはおにでもいい、何十年か後にきびしさの、本当の意味がわかってもらえる日まで、おにを通そうと思っています。七日の音楽会、ごくろうさま。

 

では、夏の研究会まで、お元気で。

(白河市立五箇小学校教諭)

 

夏−−。

 

海べの町では、太陽の光は若者を真っすぐ射抜いて汗をひからせる。盆地の都市では、光は大気中に散乱し道行く人を熱波で包む。同じ太陽が、地形により、植生により人間の生活に差異をもたらす。もしこの文脈でいうならば、教育という光は子どもにどんな変化を与えるのだろうか。

真っすぐにつながっていたと思い、光の中にいると思っていた人間の絆もひょんなことからよじれ、離れる時がくる。わだかまりが大きくなって、不信が生まれる。固定した物の見方、光のあて方は、変化を拒む。これは特に、年輩者と若者、教師と子どもの関係で顕著ではないだろうか

 

夏。町では若者たちが自由自在に動きまわり、海では子どもたちが水しぶきあげる。街角ですれ違う女の子の笑い声が鮮烈に胸を打つ。もうあの水しぶきの中に入れない、あの笑い声にあわせられない。そんな自分に気づいて愁然とする夏−−。

 

それでも教師は、毎年毎年新らしく若者を迎え、子どもを育てる。いや育てなければならない。季節は変わってもそれぞれの季節の中で……

 

朴散華即ちしれぬ行方かな

茅舎

 

中三の「閑」

山本 雄三

 

三年の国語の教科書の目次をめくる。井伏鱒二の「山淑魚」が載っている。「この山淑魚は大山淑魚で、今は天然記念物、捕獲を禁じられている。が、ヤマ山淑魚はこの辺にかなりいるんだが見たことあるか」と聞くと、全々見たことがないという。「じゃ参考に獲りに行こう」となる。教室では想像もできない活気と楽しさがそこにあった。

山淑魚は水槽に入れられ、見守られるようになった。卵からふ化した時の喜び。しかし、三週間後には絶滅。親は、欲しがっていた生徒が分けあって持ち帰ったが、その後なんの話も聞かなかった。おそらく死んだのであろう。参加しなかった生徒は、当日の話を聞かされて、ひどく残念がった。

沼の桜が満開というとき、花見に行った。参加者はがぜん増えた。仲間外れにされがちだったA子が、歌をうたい、私に、家族のこと、ハウス栽培の仕事、卒業後は手仕事中心の職に就きたいなど、これまた教室の彼女からは考えられない話。私には大きな収穫。

夏休みに入って二日め、朝五時集合のサイクリング。なんとクラスの三分の二の生徒が集まる。やゝツッパリ気味だったA男は、バレーボールまで持って。クラスの人気者H子は、寝坊して参加できなかったのを今でも悔んでいる。福島の松川河川敷きの広場で、ドッチボールやバレーに興じ、「サイクリング」の歌を走りながら合唱。変速ギアの自転車に乗っている男生徒は速い。普通車の私や女子は、「先頭速すぎるぞ−」T君の自転車パンク。空気入れや小道具で応急処置、見守っていた彼等は「さすが先生」。

夏休み半ば、茂庭へ。半数参加。太っちよのI子と仲良しのS子が泳ぎは苦手なのに、誘われて深みへ。あわや沈没というところを男、女生徒が救う。心配気に皆寄ってきて、「休んでいな」「日陰のところがいい」といたわる。釣りを楽しむ者、高飛び込みをやって得意気なK君。ふと井上靖の作品を思いおこさせる彼等の動き。にわか雨にあって、狭いテントに身を寄せあって大騒ぎ。

受験学習に入って熱がこもった十一月、文部省短期派遣でヨーロッパヘ。父兄たちは、「この大切な時期に二週間以上も……」といたく心配。(これは後で分かったこと)しかし、生徒達は、「先生、お土産うんと買ってきて」「大丈夫、勉強の方はバッチリやってっから」「体だけは気をつけて。飲みすぎてはだめよ」と声をかけ、注意してくれる。本当に嬉しかったし、旅先でも彼等への心配はしなかった。

進路についての三者面談。あっけないほど簡単に話が決まる。「受けたい

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。