教育福島0102号(1985年(S60)07月)-007page

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提  言

 

の仕事が、いざやってみると非常に難しいものであり、1まるで出来ない。失敗また失敗である。苦しかった。技量不足を思い知らされ荘然自失といった有様であった。若い頃、「毎日、親父はよく飽きもせず同じ仕事をやっているなあ」などと思って、自分の理想を追い求め、父の仕事に興味をもたなかったことが今になうて大きな壁になったのである。

宗像窯は伝統窯である。父以外の方に教えを乞う訳にもいかない。ロクロひとつとってみても、その極意を知らず、全く途方にくれてしまったものであった。慌てた。しまったと思った。標的を定めるのが余りにも遅かったのだ。一体どうしたらいいのだろう。これからこの伝統ある窯を果たして承け継いでいけるのだろうか。毎日悩みに悩んだ。

 

その頃からであろうか。

ようやく父や先人達の仕事の偉大さというものを身をもって感じ、私自身の仕事−−物造りとしての標的を何とか定めることができたのは。それまでは、如何に騒いでも走り回っても、結局父の手の中でのことであったのである。いささか遅きに失したのであったが、父の死をきっかけとして、先人の偉大さや長い修業というもののもつ意味を知り、先人の業績と素直に向きあって学ぶ心構えが大切であることを知ったのである。

 

それからというものは、伝統というものの重みを一段と強く感じ、今まで以上に伝統に生きようと決心した。新しい仕事、ざん新さの追究ということも「物造り」にとっては誠に大事であるが、それにも増して大切なことは原点に帰って先ず先人の仕事に追いつくことであり、間口を広げず、自分の標的を絞り、更に堀り下げていくことである。「真の物造り」にとってこのことが最も大切なことである。

私は固くそう信じたい。

 

制作中の筆者

制作中の筆者

 

筆者作・土灰鉄釉自流傘立(昭和六十年五月作)

筆者作・土灰鉄釉自流傘立(昭和六十年五月作)

高さ五十七センチメートル・直径四十センチメートル

 

 

 


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