教育福島0102号(1985年(S60)07月)-023page
自然と子どもたち
弦間 一郎
私が勤務する福島市小鳥の森は、福島市の中心部からわずか四キロメートルほどの小高い山にあります。ここは、町から近いこともあり、日、祭日や放課後には、数多くの小学生が集まり、自然を相手に遊びまわっています。しかし、子どもたちは、本当に自然を相手に遊び、楽しんでいるのでしょうか。
私ども、小鳥の森の職員が子どもたちを良く見ていますと、必ずしもそうとばかり言えないように思われます。友達に誘われて、また、家族連れではじめて小鳥の森に来た子どもにとって、自然の生きもの−鳥・昆虫・植物−は、どう扱って良いのかわからないものとして映っているようです。
二年程前、小鳥の森がオープンしてすぐの頃、こんなことがありました。
ムクドリのヒナが保護され、数日間面倒を見ていました。ヒナは、二時間おきにとても多くの餌を食べます。そこで、放課後、小鳥の森に来ていた子どもたちに、餌を山からとってくるよう頼みました。ところが、彼らは、なかなか出かけようとしません。わけを聞いたところ、ヒナが餌とするイモムシがどこにいるかわからないと言うのです。緑がまぶしいくらいの山の中です。食べ跡のついている葉を裏返せば、イモムシなど簡単に見つかるはずなのですが……。
本やテレビで得た知識と、現実との間に大きなギャップが存在しているからでしょう。本物を見、触わり、そこから何かを感じとるという体験がいかに大切かわかります。
昔は、近所のガキ大将が年下の子どもたちを集めて、山の中で遊びを教えていました。虫のとり方、山の歩き方、山での遊び方……。その中で、子どもたちは自然の不思議さ、すばらしさ、やさしさを感じとり、そして、人間以外にも様々な生きものが身近にいることを実感していたはずです。
今、町のまわりから自然が消え、ガキ大将がいなくなりつつあります。小鳥の森では、この事態を少しでも補うべく、身近な自然を確保し、ガキ大将に変わって、私どもが案内をしていきます。子どもたちが、かつてのように、山の中や草原で、生き生きと遊びまわる姿を、今、再びとり戻したいものです。
先日、小鳥の森の池で、ひとりの子どもが、ガマガエルをつかまえました。彼の顔は、うれしさと、少しばかりの誇りでいっぱいでした。小さな虫もつかめなかった子どもが大きく変わりました。
多くの子どもに同じ体験を……と心より願うばかりです。
(福島市小鳥の森ネイチャーセンターレンジャー)
小鳥の森ネイチャーセンター(福島市)
風景と美術
村山鎮雄
福島県は自然の景観に恵まれ、広い県内には海や山、川や湖と変化に富んだ風景が広がっている。相馬の松川浦、いわきの塩屋崎などの海辺の眺め、吾妻山、磐梯山、安達太良連峰などの山々、深い緑色をたたえた只見川、五色沼、猪苗代湖などが四季折り折りの豊かな表情を見せている。これらの風景は県内外の美術家たちの絵心を誘い、絵の題材としてとりあげられ、数多くの風景画が描かれている。特に、裏磐梯の五色沼の神秘的な美しさは多くの秀れた美術作品の素材となっている。
また、遅い春が訪れるや一斉に咲き競う桃やりんごや梨の花は、残雪の吾妻山や安達太良連峰を背景として、絵心が動く風景となる。こうした名高い観光地ばかりでなく、山里や漁村、丘陵地の森や田畑、都市や近郊の風景が描かれている。このように県内の景観は美術家が思い思いにとりあげて描い