教育福島0102号(1985年(S60)07月)-027page
になっているいじめなどは、まず考えられないのではないかと思う)学校教育の面では、教師と生徒、父兄との信頼関係が厚い点を挙げなければならない。その分、教師と生徒とがよく話し合いをするということである。(校内暴力、生徒が教師に手をあげることなどは思いもよらないということである)十日ほど滞在したが、どの都市、どの学校を訪れても、つっぱりらしい生徒を目にすることはなかった。それに、個性と自主性を尊重する授業の展開がなされている点が多いように見受けられた。日本の中学生に相当する生徒が研究したという資料を見て、その質と量に驚嘆させられた。社会教育においては、社会環境が健全なことである。多くの商店は、土曜の午後と日曜の一日が休業であり、平日も午後五時には閉店になるのである。また、テレビ番組もドラマが多いようであるが、子どもと一緒に見ていて目をそむけたくなるようなシーンはほとんどないのである。マンガの放映も少ないようである。
次は、インドネシアについて述べる。この国は、発展途上国であり、政治的にも、宗教的にも経済上にもいろいろ問題をはらんでいるようである。ある盲人の学校を訪問したときに強い印象を受けた。障害を持った子どもたちが元気はつらつとした合唱で我々一行を歓迎してくれた。また、その寄宿舎の一室で、高校生が一人点字で自習をしていたのだが、将来は大学まで進み医療関係の仕事に就きたい希望を抱いてがんばっている姿に接した。そして、その学校を去るに際し、目の見えない少年少女たちが、塀越しに手を振って送ってくれる光景を見たことなど胸がつまる思いでいっぱいであった。五日ほどの滞在ではあったが、この国で接したどの若者も、将来に対し、はっきりした希望を持って生活しているのは、まことにたのもしい限りであった。
(常葉町立常葉中学校教諭)
思いやりのある子に
遠藤 一男
ことしも園の畑に、さつまいもを作る予定だが、五月節句にはまだ整地されず、空地の広場だったのでこいのぼりを揚げた。快く晴れた朝、H男と私が上げ綱、A男とY男が引き綱を持ち「さあ引っぱって」、「よいしょ」と引いたとき、Y男の下から可愛らしい一発の音。「わあくせ」、「へたれY」とAとHがはやしたてる。Y男は平常言葉数も仲間遊びも少なく、のぼり揚げによく参加したと思っていたのだが、肩をすくめしぼんだ顔を赤らめうつむいてしまった。A男たちは弱って参ったのを面白がって調子づき、やりこめようと言いたてる。「誰だってへなんかするよ。もうやめなさい」と強くたしなめたが、これが幼児のいじめっこの場面なんだと浮かぬ気分になった。
花だんや畑の仕事をすると、二年前に在園したK子が想いだされる。作業衣・麦藁帽子でいると、そっと寄ってきて「園長先生、疲れたでしょう。休んだら」と言葉をかける。「ありがとうK子ちゃん、とっても優しいね」、「お母さんもお父さんに言うの」、「ほう優しいお母さんだなあ、お父さんは」「ありがとうて言うの」二言、三言話しては他の遊びに移っていく。時に暑い日ざしに額ぎはに汗をにじませて、笑顔で言ってくると気が休まったが、年長の一学期を終って夏休みに他県に転園していった。
同じ学年だったL子のことである。夏の午後、降園の三番バスが見えて「バスきた」の声に、二、三人が遊び道具をそのままにした。最後のバスなので片づける幼児はいない。私はバケツに道具を拾って下げてくると、並んだ列の中からL子がでてきた。私の目を見てから黙ってバケツを取り、洗い場に運び、並んでいる友だちを気にしないかのように、道具を洗って整理かごに入れて列に戻った。この間幼児たちは誰も声をかけなかったし、手伝おうともしなかった。私は何も言わずL子の様子を見ていたが、心の中でL子に話しかけていた。『バスに遅れそうだから先生がするから』、『片づけないんだから手伝っていきます』、『だったら洗い場まで運べばいいよ』、『洗ってしまっていきます』、『ありがとうL子ちゃん、園長先生嬉しいよ』と。バスが待っていたので乗ることが出来たが、幾人かがさようならの手を振り、遠ざかって行った姿を見送りながら、暖かな感情が私の胸に湧いてきたのだった。
けさも新緑の山並に囲まれた園庭に入園一ケ月余の年少児が、かごめかごめと輪をつくっている。担任は「こっちへおいで」、「みんなで遊ぼう」と誘っては、まだ一人ぽつんと離れて遊びに入れない子、近くに来ても見ているだけの子や歌のわからない子などに、根気よく繰返し指導して、遊びの輪を広めていく。年度初めの園生活のねらいの一つに、小さい組さんや体の弱い子、うまくできない子も仲間にして遊ぶ。遊び道具や遊び場を一人じめしないでみんなで遊ぶと、友だちがたくさんでき、気持ちよく、安心して楽しく遊ぶことができることをわからせるとある。幼児は毎日の園や家庭生活で、ちょっとした遊びや出来ごとから、心のあり方が生まれ変って、一生を支える土台ともなる。A男たちの茶目気は