教育福島0102号(1985年(S60)07月)-028page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

よくあることだが、度を越すと相手の子どもの心に、みじめなかげを落すことになる。K子やL子の行ないは多分に家庭生活の延長であって、家族間のいたわり、助け合う言葉かけや動きが、幼児の身に覚えこまれて、自然な行いとなって認められたのだろう。保育参観や家庭教育学級の折に、家庭でも他人への思いやりや心遣いの芽ばえを育てる配慮をしてほしいと話したい。

(大信村立大信幼稚園長)

 

黄金の鮎を

根本英雄

 

鮎の友釣りは優雅で釣趣豊かで、釣っていない時でもその魅力は大きい。

 

鮎の友釣りは優雅で釣趣豊かで、釣っていない時でもその魅力は大きい。

焼けつく川原に濃い影を落として、好ポイントを求めて移動する折は、真昼の決闘のジョン・ウェインを思ったり、川原ぐみの葉裏の銀色をまぶしがったり、唐もろこしの葉擦れを涼風と感じたり、炊きたてのご飲の匂いを稲の花に見つけたりする。背中はリュックと予備竿、左手におとり缶、竿に仕掛けとおとりをつけたままの移動はよく行う。おとりを通い筒に入れ、弱らせないで運ぶ。長竿の尻近くを首筋に乗せ、竿尻をひじの内側で上から押さえ、指と手首を調整しながら筒の水をこぼさず、中の鮎が平静でいられるように掌で暗くする。ハリスは張らずに、時々冷水を補充しながら、歩く調子と竿先の振幅の均衡を測りながら、浮石を避け、爪先でクッションをつくって左右の脚を踏み分けて歩を進める。そのリズムは常にラ・クンパルシータになる。移動を余儀なくされるころは、鮎釣り独特の「土用隠れ」現象である。

 

日照りが続くと圭藻類(アカ・のろ)は腐り、鮎は食べない。光の届かない深場などに隠れるのだが、釣果の上がらない日が続く。川相、水量、底石のぐあいがよくてもかからない。目くるめく夏空、輝く白雲、水底からのキラキラの照り返しが顔をまだらに染める。そして、あの痛いほどの魚信(あたり)を胸の鼓動に合わせて待つ。積極的に待つのである。待つのだ。川の中に生えた木か、流れの中の大石のように、「木化け」、「石化け」になり、呼吸を止めて一つの物体になる。その無機質は、カチッとくる魚信のみが人間にもどせる。一般に知られてないが、「出鮎」という生態学的現象がある。普通の鮎の生活からは想像できないほど多くの鮎が湖上する。その異常さは、縄張りも捨て家も捨て、という状況で、一途に一種の狂気が鮎をかりたてる。それを釣り上げると、全てのひれがまつ黄色で、赤で縁取りしたような色が息づき、その彩りの鮮やかさといったらない。一面に漂う匂いはあくまでも植物的で、優しい魚体は、女性的で繊細そのもの。だれにも言ったことはないが、私には時には媚態すら見せるのである。それゆえ鮎を愛するのである。

この「出鮎」の時には休まずに釣り続けると予想外の釣果が出るもの。好機を見逃すわけにはいかない。

川原の上、下流から釣り人が近づき嫉妬の視線が襲ってくる。続けて釣り上げていると羨望の声に変わり、更に釣技と平常心を保ち得たものは夏の日の英雄になれる。

 

「黄金の鮎」の話を聞いた。二十数年釣っているが、まだそれを見ていない。科学的解説はいらない。この鮎はおとりにすれば一日中使えるという。想像を絶する強靭な魚体、内奥に秘めた激しい闘魂、冴えた聖なるまなざしには射すくめられてしまうだろう。それを求めて鮎釣行はやまない。

(桧枝岐村立桧枝岐中学校教頭)

 

第38回

 

第38回

 

福島県文学賞作品募集中

 

県教委では本年の県文学賞への作品を募集しております。

 

●部門 小説・詩・短歌・俳句

●応募 県内在住者ならどなたで資格も可(ただし、生徒及び学生については、県外勉学中の県人を含む。)

●応募方法 ・作品を五部提出、一部ごとに第一ページ目に応募部門、作品題、氏名、生年月日、電話番号、職業(会社、学校名等)、文学歴(県文学賞受賞歴)及び所属等を記入。

・四百字詰原稿用紙を用い表紙をつける。

●送付先 福島県教育庁文化課内「県文学賞係」

〒九六〇福島市杉妻町二ノ十六

●賞の種類 四部門ごとに「文学賞」「準賞」「奨励賞」「青少年奨励賞」を授与。

●締切 昭和六十年八月三日必着

●発表 昭和六十年十月中旬

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。