教育福島0103号(1985年(S60)08月)-029page
![]() ![]() ![]() |
![]() ![]() |
あたり前のこと
田口 侑義
![]()
近年、余暇の利用や健康増進への関心と相まって、スポーツに対する愛好熱がますます高まってきております。見るだけのものから個人が自ら参加する機会が増えたことで、プロやアマチュアの世界を問わず、競技に注がれる愛好者の関心は熱を帯びる一方のようですし、日本の企業がスポンサーとなって冠大会を次々と開催し、世界のトップレベルのプレーが国内で身近に観戦できるようになったことなども、スポーツ熱が高まっている一因ではないかと思われます。
今日の若者は体格面での成長はもとより、知識や情報量の面においても、私の若いころに比べ、はるかに素晴しい能力があると思います。社会環境が急速に変化し、かってないほどモノが豊かな中で育っている若者に接し、指導するにあたっては、昔の経験だけで臨んでも対応が十分でないことは承知をしているつもりでも、このような新しい人たちの力を引き出し、伸ばしていくためにどうしたらよいか、私自身模索しているのが現実です。
私の選手時代の昭和三十年代を振り返ってみますと、今日の著しい変わりように改めて考えさせられてしまいます。当時は、世界選手権で海外遠征に行くとなると、恩師や先輩、同僚らが親身になって資金集めに奔走し、送り出して頂いたものです。国体にしても、昨今のように各県色とりどりのブレザー姿でさっそうと入場行進するのではなく、各県のワッペン一枚を学生服や私服の胸につけただけの姿で行進しました。それでも、郷土の代表として期待をにない、誇りをもって行進に参加したというのが、皆一様の感概だったのではないかと思います。
しかし、今日物が豊かになり、なんでも手軽に手に入れられるようになって、物おじしなくなった反面、苦労にあえて挑んだり、感謝する気持ちが薄らいでいることは否定できないように思います。海外遠征や旅行にローンでも行けるようになり、家族や企業、学校の援助で出かける人も多くなっておるようです。見聞を広めることは大いに結構なことですし、チャンスがあったら果敢につかんで出ていったらよいと思いますが、お世話になった人たちへ、あいさつなり手紙できちんとお礼ができなくてはいけないのではないでしょうか。時間がお金で買えると思っていたり、ましてや留守を引き受けてくれた周囲の人たちの好意や友情が、あたり前だと思う人間にだけは育ててはならないと、自戒をこめて指導にあたっている昨今の心境です。
(東北ムナカタ株式会社ハンドボール部監督)
![]()
日本リーグで活晒する東北ムネカタチーム
![]()
S君のこと
花見厚子
![]()
「先生、今着きました」なつかしい声が受話器から聞こえる。四月二十九日、午前十一時、私は、自転車で約束の場所に駆けつけたがS君たちはいない。勘違いしたらしく、車の中に大きな体をうめている彼らに会えたのは二十分後、そそっかしいところは相変わらずである。
S君は、今春、高校を卒業し、群馬県の会社に就職し、連休を利用してY君とはるばる会津の私の家に遊びに来たのである。
小学校から粗暴なふるまいが多かったS君は、いわゆる問題生徒であった。集中力に乏しく級友とのトラブルが絶えず、職員室で彼の名がでなかった日はなかったくらいである。新採の学級担任であった私は、当初、S君と毎日まともに衝突し、『明日はS君にこうしてやろう』とあれこれ考えると、悔しく
![]() ![]() ![]() |
![]() ![]() |