教育福島0103号(1985年(S60)08月)-030page

てなかなか眠れない夜もあった。しかし、級友との問題はあっても、喫煙などには走らない生徒であると、なぜか私はその点は彼を信用していた。

ところが三年の時、彼は、校舎近くで喫煙しているのを偶然M先生に見つけられ、私のもとにつれてこられた。彼を信じていただけにS君を前にして私は動揺した。話しているうちに、彼は大粒の涙を流し始め「先生、悪かった。もう絶対にしないから家の人にだけは言わないで下さい。今まで家の人には心配ばかりかけてきたから…」と訴えた。迷った私は、これが彼の行動の歯止めになるならと思い、今後のS君の行動しだいということを約束してそれをのんだ。

またS君はクラスでは口やかましいため、級友からは敬遠されがちな存在であった。しかし、学級対抗の行事などで、もうひとつ盛りあがりに欠ける時、一人一人の気持ちをひとつにまとめ、連帯感を高めることができたのは、ざっくばらんで人間味のあるS君の力によることが大きかった。

三年生も後半になると、彼にもいやおうなく進路の選択が迫ってきたα勉強が苦手だった彼に「高校に行ったら勉強のほうはともかく卒業できればいいからへ好きな柔道を思いきりやりなさい」と励ました両親のことばが目標になり、彼は地元の高校に進学した。

S君たちが卒業すると同時に私は、郷里の会津に戻ってきた。一番私をてこずらしたS君は、英語で赤点をとってしまったこと、担任の先生のこと、友達のことなど折にふれてよく電話をくれた。彼が高二の時、柔道の大会が会津であり、私は久しぶりに心身ともに一回り大きく成長した彼の姿を目にすることができた。暖かい家族や先生友達に恵まれ、三年で念願の柔道二段をとったS君にとって、まさに高校生活悔いなしであったことだろう。

今、S君は、家族や仲の良かった友達と離れ、自分が一番年少の職場で、人間関係の難しさ、寂しさを味わっている。

また近々電話が来そうである。

(山都町立山都第一中学校教諭)

　

全国大会にむけて

瀬谷愛子

　

六月五日の夜、電話のベルが鳴り響いた。私の住むいわき市渡辺町のママさんバレーチームの主将からであった。

話しの内容は、渡辺チームがいわき地区大会に優勝したとの報告であったが、その後大変な話をもちかけられたのである。というのは、渡辺チームは県大会出場権を与えられたが、監督がいない。これは何とも心細い限りであり、なんとか監督を引き受けてもらえないだろうか。との事であった。

このチームとは、私自身かって所属していたこともあり、立場上いろいろと世話をしてきたことでもあり、まして後輩が県大会出場ともなれば、何がしかのお手伝いをしなければ……と安易に引き受けてしまったのであった。練習仲間としての気易さでもあったろうか。

県大会ではどこまで戦えるものやら誰も見当がつけられない状態で、なんとか一勝ぐらいはという気持ちで試合に臨んだ。ところが一戦、一戦と勝ち進むうち、日ごろの粘りとチームワークの良さが発揮され、普段の練習では見られないような試合運びをするようになり、他のチームから、「試合ごとに強くなってくる」といわれ出した。しかし平常の彼女達の練習ぶり、団結ぶりから見れば、日頃の練習の成果がいろいろな場面に見事に発揮されたものであり、彼女達の健闘に監督としてと同時にかってのチームメイトとしても心からの拍手を贈ったのであった。

　

ゲーム中の彼女達の汗、燃えるような熱気、タイミングをはかるタイム、応援の家族の声……と試合時間があっという間に過ぎ、そして一試合が終り、気がついてみれば県大会優勝という思っても見ない結果となった。

そして、その喜びも束の間、今は八月の全国大会にむかって練習に汗を流す毎日である。とはいっても毎日の家事や育事そして地域の事をこなしながら、家族の協力、地区の方々の御協力を得ての練習である。殊に地区会長さんの計らいで市内の強豪梅香チームとの合同練習、他地区への遠征試合と練習も内容濃くハードとなり、また多くの先輩、先生方の御指導もあおぎ着実に力をつけてきている。そして、キャプテンを中心にチームワークに更に磨きをかけ守りと攻撃の両方をうまく使いわけ、県代表として恥じないようがんばりたいと思っている。

特に私達のチームは、学生時代等にバレーをやってきたという、いはば専門の選手は少ない。ここまできたのも生活の中でさわやかな汗を流したい、スポーツを楽しみたいという気持ちが全員の心の輪、力となってきているのであり、そのための多くの方々の協力に支えられているということを心に刻みこみ、この大会が各自の日々の生活に大きな思い出となるよう心がけたいと思っている。

(全国家庭バレーボール大会出場　渡辺チーム監督・いわき市立高坂保育所長)