教育福島0104号(1985年(S60)09月)-024page

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…。人の心をとらえる、ひきつける合唱をしたいといつも思いながら、なかなかそれが出来ない。

最近の自分の大きな課題でもある。思わず見入ってしまうあざみと同じように耳を傾けないわけにはゆかない歌の表現はどうしたら出来るのか、そればかりを考えているこのごろである。

歌はメロディーにことばがついていて、そのことばを聴き手にちゃんとわかるように伝えなければならない表現のむずかしさがある。楽譜通りの正しい音を正しいリズムと発音で歌ってもそれが可能になるわけではない。出した声の中に表情がなければ、心がなければ、悲しみや喜びの表現にはならない。どうやってその表情をつけるのか…生徒をお互いににらめっこさせながらいろいろな身体表現、顔の表情、口の表情、あけ方などをやってはみるが今一つ物足りない。何げない一輪の花の美しさにハッとする心を養なうことも大切かなと強く思う。

先ず表現する本人が美しいと感じなければ他人にもその心を伝えることが出来ないだろう。そういう心を育てるにはどうしたらよいのかとつきつめてゆけば、日常生活ときり離せない問題となる。一人一人の日常生活における行動そのものが表現と大きなかかわりをもってくるように思う。全く大きな課題である。演奏する側ではなく、させる方の側としての決め手になるのが指揮、これもそう歌わずにはいられないような魔力を持つサインがおくられた瞬間は、いい音が出るから不思議なのだが実際は自分の身体の一部なのに両手がうまく思い通りに動いてくれず自分の力のなさを思い知らされる………こんなことを考えながら原っぱを散歩していたら、ねじ花のつぼみを昨年と同じそこ、ここに見つけ、あの濃いピンクの可憐な花をつぼみに重ねて眺めながらドキドキしていた。

(県立若松女子高等学校教諭)

 

勢至堂合奏団

山岸裕司

 

合っている。港屋、伊勢屋、福田屋など、歴史が古く、由緒ある集落である。

 

昔、宿場町として栄えた勢至堂−−豊臣秀吉や吉田松蔭も投宿し、会津の殿様も泊まった本陣もあり、芝居小屋まであったといわれている。このような地に勢至堂分校がある。子どもたちの家には、それぞれ屋号が残っており、大人は今でも屋号で家を呼び合っている。港屋、伊勢屋、福田屋など、歴史が古く、由緒ある集落である。

私は、この分校に赴任し、三年目をむかえる。新採用でへき地の二クラスの分校、そして変則複式学級の担任である。初めは、とまどいを覚え、失敗も多かった。新採用研修会では、しばらくぶりの大学の友人と話が合わず(へき地は私だけ)ちょっとさびしい思いをしたこともあった。今になって思うことは、学習指導、生徒指導ともに試行錯誤の連続であった。

このような中にも、自分なりにちょっと(あくまでもちょっとである)誇れるものがある。それは、全児童で取り組んだ合奏である。大学時代、オーケストラをやっていたのと、先輩の先生が音楽好きだったこともあり、児童と共に楽しく取り組んだ。最初の曲は、当時流行していた『わらべ』の「もしも明日が」である。地区の行事である『勢至堂サマーフェスティバル』に参加して、教師と児童で山あいにこだまさせた生演奏に、部落の人たちから、盛大な拍手をいただいた。私にとって、生涯忘れることのできない曲になりそうな気がする。

また、昨年度は分校も含めての県小教研の音楽研究会場校となり、研究実践に努力するようになった。子どもたちの合奏に対する興味・関心も、いよいよ高まり、『TBC子ども音楽コンクール』に挑戦するまでに成長した。並いる大規模校のそうそうたる大曲の中に、うずもれそうになりながらも、堂々と、我が合奏団の曲「青空へのぼろう」を演奏することができた。一年生から六年生までの一二年、四年生はいない一総勢十三人の『勢至堂合奏団』である。上級生は、小さな子に手を取って教え、遅くまで楽器を響かせ、一生懸命練習に励んだ。本番で、子どもたちは大勢の人達を前に、今までにない緊張感を覚えながらも、精一杯演奏することができ、満足げであった。私も感激した。

このコンクールを通して、この子どもたちは、大規模校で大曲に取り組んだ子どもたち以上に、より大きな収穫を得たことと確信している。

私にとって、子どもたちと取り組んだこの合奏は、忘れることのできない思い出である。また、この経験は、今後の教員生活にも必ず、生かしていきたいと思っている。要は、子どもも含めて教師自身が「どこで学ぶか」ではなく、「何を学ぶか」である。紙を一枚一枚敷くように、あせらず着実に実践研究を続けていきたい。本校ではできない、分校だからこそできるもの、特色あるものを工夫し、これからも子どもとともに実践に励みたいと考えている。

(長沼町立長沼小学校勢至堂分校教諭)

 

 

 

 

 


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