教育福島0104号(1985年(S60)09月)-042page

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教育センターから

 

MBD児の治療教育

(MBD=Minimal Brain Dysfunction)

 

最近、学校において、児童生徒の種々の行動の異常さや学習の障害などが問題とされてきています。これらの問題は従来心理面や環境面からだけ論じられるきらいがありましたが、実際にケースを検討してみるとそれだけでは不十分で、生理的な面からのアプローチも検討されなければならないと思います。

その一つの例が「微細脳機能障害症候群・MBD」です。

アメリカ公衆衛生局などの共同委員会の定義によりますと、「一般的知能は平均あるいは平均以上でありながら、中枢神経機能のわずかなかたよりにようて、認知、概念化、言語、記銘、注意の集中、衝動の制御、運動機能の障害のいくつかが組みあわさってあらわれているいろいろな程度の学習や行動、の異常をもつ子供」としています。

同じアメリカの精神障害の分類と診断の手引(DSM−3))では、行動特性をもとにして・「注意欠陥障害・ADD」といういい方をしています。

一、事例

MBDの子供の様子を理解していただくために、中学二年の男子生徒A君の事例を紹介します。

A君は、日ごろから落ち着きがなく特に友だちとちょっとしたことでいさかいを起こし、かっとして予想外の行動をするので、てんかんではないかと思われていました。

○生育の状況

出生などについては、特に問題になることはないが、妊娠中は家庭問題などで母の情緒は不安定でした。

歩行をはじめると同時にかなり動きがはげしく、十九か月ごろ、一人で二階に上り、ベランダから転落、幸い屋根をころがり柔らかい地面に落ちたので大事にいたりませんでした。幼児期にはころんでけがをすることが多い子でした。

小学一年〜担任のそばについて歩くことが多く、何かといたずらをすることがありました。授業中も、よく席を立って出歩きいたずらをしていました。

紙細工はうまくできず、すぐにかんしやくを起こし紙をもじゃもじゃにしてしまいました。

小学一、二、三、四年「思うようにならないと乱暴をすることが多くみられました。特に体育時などの整列のルールが守れず、また、うしろを向いてばかりいる子どもでしたが、反面大変人なつっこいところがありました。

小学五、六年〜大分落ちつきが見られるようになりましたが、みんなと同じ行動をとるのが苦手でした。学習面では、国語、算数、社会の落ちこみがひどくなりました。

国語、算数は努力して覚えてもすぐ忘れてしまい定着しません。

中一〜友だちとなじめず、何事にもすぐちょっかいを出すので相手にされず、衝動的にあばれたりしました。

○家族の状況

父=銀行員、仕事熱心ですが子育てには無関心、A君の行動は母の育て方が悪いと思っています。

母11主婦、仕事熱心で家庭を省みない夫に不満をいだき、子育てに夢中になり、完全主義的傾向があります。従って子供に対する要求水準も高いようです。

姉=高二、成績が良く、明朗、母の期待にそうように努力しています。更に弟の状況を困ったものだと思っているようです。

本人=時々姉と比較されるので、母と姉に不信をいだいています。

父とはあまり話したことがないので、どんな人なのかよくわからないといっています。

○心理検査

〔本人〕

YlG性格検査 C型−情緒安定・社会的適応・消極型ですが、支配性がいちじるしく高く、アンバランスなプロフィルを示しています。

GAT不安傾向検査 衝動傾向・孤独傾向が高く、誰かに支えられているという感じを持っていません。

〔親〕

親子関係診断検査(田研式)

父=放任・矛盾型−子育てにかかわることが少なく、子供に接する態度にも 一貫性がないようです。

母=拒否・矛盾・不一致型−子供を受けいれることが少なく、接する態度に一貫性がなく、父親のかかわり方に不満をいだいています。

以上の資料から、強くMBD児であることが疑われますので児童精神科医を紹介し、医学的診断をお願いすることにしました。

○医学的診断の確立

医学心理学的諸検査の結果、MBDであるとの診断をいただきました。

○治療教育と役割分担

相互に時間的な調整をして、教育センター教育相談部に医師、両親、教頭、担任が集まり、今後の治療教育について話し合いをしました。その結果、

1)衝動性、落ちつきなさを改善するために薬物療法を実施していただく。その結果を観察し、親・担任は週末に報告する。−医師との連携

2)学校では、役割を与え、小集団活

 

 

 


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