教育福島0105号(1985年(S60)10月)-007page

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では非常に大きな成果が上り、優れた品種が数多く育成されました。この成果もメンデルの法則の発見以前と比較すると、生物の進化の尺度で計るとほゞ同一水準のものと見られると思います。

一九五三年にワトソンとクリックによってDNAの二重らせんモデルが提出され、一九六〇年代に遺伝子暗号が解読され、一九七〇年代に入ると組換えDNA技術が確立し、一九七八年には、大腸菌に人間のインシュリンを作らせる実験に成功しています。また、高等植物の組織を試験管で培養する技術が開発され、一九六八年には植物細胞からプロトプラストを分離し、プロトプラストを培養して植物体を再分化させることに成功しています。プロトプラストから植物体が再分化することによって、異種のプロトプラスト間の細胞融合によって体細胞雑種作出と植物における組換えDNA技術の適用が現実性を持って来ました。

育種はメンデルの法則の発見によって進展しましたが、組換えDNA技術や細胞融合技術の実用化によって加速度的な進展を示すことになると思います。育種の未来は、現在の育種技術からは推定不可能なほど未知なものを含んでいます。これまで育種によって作り出された生物は、生物の進化の枠内で考えられるものでした。しかし、組換えDNA技術や細胞融合技術によって作り出される生物は、生物の進化によって生れるであろうものを超えたものが生れる可能性を持っています。

人類は人類に役に立つものの作出するのに全力を尽くして来ました。その一つの手段は育種でした。最近人類が手に入れた細胞融合や組換えDNAなどの新しい手段は、これまでに不可能であった縁の遠い生物の間での遺伝子の組換えによって全く新しい人類に役立つものを作り出してくれるでしょう。しかし、この新しい技術が人類に役に立つものだけを作り出すとは限らないことを考えておく必要があると思います。

今後、私たちは組換えDNA実験指針をどのように取扱っていくかを議論しなければならないでしょうし、また、育種の未来を考える時、人類の要求に対してどのような制限を加える必要があるのかを考えておかなければならないでしょう。

 

裸の細胞(プロトプラスト)から再分化した植物体

裸の細胞(プロトプラスト)から再分化した植物体

細胞壁を酸素でとかした裸の細胞(プロトプラスト)

 

提言

 

 

 


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