教育福島0106号(1985年(S60)11月)-031page

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のために練習問題を作る、部活が遅くなれば生徒を家まで送り届けてやる、仕事のやり直しを命じられれば、これで自分が磨かれていくのだと信じ何度でも取り組む等々、はたから見ればなにもそこまでと思うことを積極的にそして地道にやり抜いていったそうだ。だからこそ、仕事も着実に覚えていったし、そんな献身的な先生に生徒も逆らえないといった状態を作り出すことができたのだと友人は見るのである。

私はこの話を聞いて、自分が恥ずかしくなり、願わくは、その先輩のような教師になりたいと切に思ったのだった。

 

まだまだ未熟な私であるので、今なお、生徒たちの中学生とも思えぬ行動や、自分の仕事の不手際に、いらついたり、めげたりすることが多々ある。しかし、教師という道を選んだのは他でもない私なのだ。自分の選択に責任を持ちたいと思う。幸い、私の周囲には、私を教師として育てて下さろうとしている先生方があまたおられる。その厳しく温かい助言・指導を受けて少しでも教師として成長していきたい。仕事や生徒に対する「誠実さ」を忘れずに……。

明日もまた忙しくなりそうだ。

(福島市立福島第一中学校教諭)

 

先人の足跡に学ぶ

伊藤良夫

 

ヘほど遠い。それもそのはず、この二人は我が校の番長とそのナンバー2である。

 

二人の生徒が先程から窓ガラスの掃除をやっている。ホースで水をかけ大きな窓ガラスを洗う者、長い柄のついた水切りでふきとる者、どちらも手際がいい。事務室の窓から始まって校長室、職員室、会議室そして保健室まで、およそ二時間、休むことなく働いている。外見だけからすると、彼等の後ろ姿はどうみても模範生の姿からはほど遠い。それもそのはず、この二人は我が校の番長とそのナンバー2である。

 

今日の学校裁量時間は環境の整備であり、除草作業が主である。しかし用具の数の関係で各種の作業に振り分けている。

昼休みに用具を準備していた私がこの二人に声をかけてみた。「おい!二人で窓ガラス掃除をやってみないか」「先生、やってみるよ」そう言って二人は進んでこの作業を引き受けた。私はこの二人の姿を見ているうちに感無量となった。何かしら胸にじんとこみあげてくるものがあった。思えば、三年前に本校に赴任して来たころにはとても考えられなかった光景であった。

彼等は別の仕事でも私たち教師の手順が悪いと、そばに寄ってきて顔を真っ赤にして怒鳴ったりする。そんな時はよく話を聞き、そのあと彼等に仕事を頼むと実に手際よくやってくれる。私が感心し、ほめてやると満足して引きあげていく。今では話せばわかる集団になってきた。(もちろん、目を離すことはできないが……)

私が僻地といわれるこの学校に赴任するとき、諸先輩からご指導をうけた。それは、「生徒との対話を工夫しなさい。地域の人々の中に飛び込み、保護者の信頼をかち取りなさい」「過疎に悩む小規模校のあり方を勉強してきなさい」などであった。

私は、「今までに培ってきた二十年以上の経験を生かせばなんとかなるだろう」そう思ってやって来た。しかし、この考え方は甘かった。都市部での生活が長い私には理解できないことが次々と出てきた。地域住民の期待に応えること。都市志向が強い中で地元高校である本校への入学を定着させることはなかなかむずかしい課題のようである。

加えて、集団のリーダー養成、絶えず私たちを悩ます生徒指導、そして個別指導に重点を置いた授業の充実などやらねばならないことが山ほどある。毎日がかけ足であり、気がつくといつも夜の七時になっていた。保護者は夜でないと家にいないし、しかも九時には寝てしまう。家庭訪問のタイミングが実にむずかしい。

最初の一年間は仕事に追いかけられる毎日であった。「これでは良い成果は生まれてこないだろう。こちらから仕事を追いかける状態にもっていかねばだめだ。それにはどうしたらよいか」半年間、このことで悩んだ。そんなある日、「この地にきた先輩の先生方はどのような生活をしていたのだろう。先人の足跡に解決のヒントがあるのではないか」そう思い調べてみることにした。学校に残っている資料、地元の方々から聞いた話、それらは途方に暮れていた私に示唆を与えてくれるものばかりであった。

一、教師の基本姿勢を失わないこと。

二、地元の人々に迎合することではなく温い心で生徒や保護者に接すること。

三、情報を豊かに集めて正しい判断を下すこと。

このことを続けていくことによって道は開けてくるにちがいない。肩肘を張ることなく、あきらめることなく、くりかえし、生徒指導を続けていくことだと思う。

 

冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、

 

 

 


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