教育福島0107号(1985年(S60)12月)-019page

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恋の表現のしかたに注意させる。

(3)指導の実際

指導計画の二時限の展開を示す。

−導入−

〈学習活動〉1)春の歌と夏の歌の学習をする。

〈留意事項〉1)プリントを参照し、疑問点等をチェックする。

−展開−

〈学習活動〉1)歌と詞書を音読する。2)梅の香から連想されるものと技巧的な表現とを考える。3)物語性を持った詞書について知る。だれが、どこで、何をしたか、ということが語られていることを知り、また、宿のあるじが男か女かを考える。4)「香をかげば」の「ば」に注意する。5)香をだきこめていることを知る。6)詞書が脱落してしまったのかどうかを想像してみる。

〈留意事項〉1)大きな声で音読できるようにする。2)梅と香の、桜と姿の関係を考える。(46・47・48・51・54の歌を味読する。)3)「伊勢物語17段」を示す。(ここでは、桜花の例として示す。)また、「古今和歌集62・63」の歌を範読する。4)恒時的なものか、偶発的なものか、自由に発表させる。5)「聞香」の歴史について学習する。6)補足するとしたら、どのようなものになるのか、生徒各自に考えさせる。(参考として「伊勢物語60段」を教師が朗読する。)

−終結−

〈学習活動〉1)斉読して、本時で学んだことを復習する。2)次時の予告をする。

〈留意事項〉1)情景や心情を想像させる。2)秋の歌と冬の歌についての予習の指示をする。

(4)評価の観点

1)仮名文学としての「古今和歌集」の価値と、その成立までの流れが理解できたか。

2)詞書と歌の関係が把握できたか。

3)歌の技巧の特徴が把握できたか。

4)歌の趣きと情景が想像できるようになったか。

5)「古今和歌集」のトータルなイメージを自分なりに把握できたか。

(5)発展

1)「古今和歌集」で学びとったことがらを踏まえ、他の歌集も読むようにする。また、「古今和歌集」の中の植物とか地名とか作者のエピソードとかを、自由研究課題として、生徒にまとめさせ、発表会を行う。

2)「古今和歌集」と「伊勢物語」では何首の歌が共通しているのかをまとめさせる。

3)一年次に学習した「万葉集」の歌と「古今和歌集」の歌について、その趣きのちがいを比較する。

(6)生徒の感想文−指導計画五時限の学習展開を踏まえての感想文(抜粋)

1)四季の歌から恋の歌へという部立の構成について(高校二年女子)

・まず感じたことは恋の歌は男性より女性の方が情熱的であることだ。在原業平が「わたしだけはもとのままである」と憂いを含んだ調子であるのに対し、伊勢は「わたしの心の火を燃やして」と大胆である。たぶんそれは女性が男性にくらべて、身動きのとれない「待つだけ」の存在であったからだと思う。四季の歌では歌を詠む人の想像力のすばらしさに驚かされた。素性法師の歌を読むと、清流に流れるもみじが目にうかぶようだ。

2)詞書について (高校二年女子)

・詞書を読むと歌を詠むときの作者の気持ちがしみじみと伝わってくる。長い詞書の場合は、さまざまないきさつが理解でき、その歌を一層切実にうけとめることができるし、短い詞書の場合は、かえって何もわからないことによって、その歌のイメージや作者の心を自由に想像できて楽しくなる。それぞれが、それなりに、とてもいい味を持っていると私には感じられた。

3)「古今和歌集」と「伊勢物語」について(高校二年女子)

・「古今和歌集139」と「伊勢物語」とは密接な関係にあると感じられる。「よみ人知らず」のこの歌は、「伊勢物語」では宴会の席でのたわむれの歌に感じられるが、「古今和歌集」では孤独感が漂っていると感じられる。仕事一筋で妻をかえりみないがゆえに、自分だけがとり残されたのである。「伊勢物語」では、妻は前夫に酒を差し上げたのだが、結局、愛はよみがえらなかった。この切ない感情を「古今和歌集」では「花たちばなの香」に托して詠みあげる。季節をうたいながら自分の心をうたう、しみじみとした歌である。

4)作者について(高校二年女子)

・愛は障害があることによってより激しくなる。〔七四七〕の歌の在原業平の場合もそうである。愛する人は去ってしまい、日々が流れ、気がつけばまた春である。しかし、去年の春とは何という違いだろう。「月や昔の月ならぬ」に作者の悲哀がうかび上がってくる。作者の心は昔をさまよい、.時の流れにも取り残されてしまったのだろうか。愛する.人をそこまで思いつめた業平に私は心をひかれる。この歌は時代を超えて今もなお訴える強い感動がある。

(資料1 学習の対象とした歌)

41春の夜、梅の花をよめる

春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる

42初瀬にまうづるごとに宿りける人の家にひさしく宿らで、程へてのちにいたれりければ、かの家のあるじ、「かくさだかになむやどりはある」と、言ひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる

つらゆき

人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける

139 読人しらず

五月まつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする

293二条后の春宮の御息所と申しける時

 

 

 


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