教育福島0107号(1985年(S60)12月)-022page

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(二) 講読学習 記事は関連記事と共に複写して渡したり、一冊そのままを渡したものもある。十二名の生徒には、定期考査終了と同時に自習に入らせ、不明なところは質問するように指示した。

(三) 自習過程 自習過程で質問が多出した。教師自身不明な箇所は調べねばならなかったし、関連する参考書を貸与したりもした。図書館から、生化学・分子生物学関係図書の貸出しや問合せが多くなったとの報告を受けた。

(四) 発表内容のまとめ 発表内容はノートに書かせ、教師の点検後、聴講者が書写するのに便利なように簡潔にまとめさせた。

(五) 発表準備 発表法は模造紙のチャートやOHPを使用させた。理解を容易にさせるためできるだけ表や図で表現するように指導し、文字の大きさ・図の描き方・線の引き方、さらに立体的表現には着色が効果的であることも指導した。

(六) 発表 発表時間は一人二十分としたが、超過したり短かすぎたりし、また、チャートを読むだけの者、板書までする者、要領よく話す者など、様々な発表風景であった。

聴講者には質問をするように指導したが、急に高度な内容になったためチャートの書写に追われたり、理解できないとあきらめている生徒もあって質問はほとんど無かった。

(七) 事後指導 初回、生徒発表後に教師が要点を再度解説する方法をとったが時間が冗費されるので、次回以降は発表前に留意点を示して発表に移らせ、また発表中に一時停止させて解説を補ったり、終了後若干の補足指導をして発表をさせるようにした。発表者にはチャートを保存して一般生徒の便に供するようにさせた。

(八) 生徒の反応 実験生徒(発表者)は科学雑誌に接するのが初体験である者が大部分で、はじめ抵抗が大きかったようだが次第に教科書や一般参考書とは別の魅力を感じとったようである。ある生徒は「もう一度別なテーマでやらせてほしい」との申出があったが、時間の都合上不可能であった。また、別の生徒は「別の記事を読みたいから」との申出だったので、手持ちの適当な数冊を貸与した。数日後、笑顔で返却に現われ「私も書店へ注文してきました。」と報告して帰った。聴講者の中には「自分もやりたかった」と感想をもらした生徒もいた。

 

六 考察

 

以上の結果から学習意欲の喚起に関して雑誌講読学習が果した役割について二、三の考察を試みる。

(一) この学習指導の全過程を通じて仮説を否定する事実は認められなかった。これは強制的な動機づけであったにせよ、生徒に特殊的好奇心を生ぜしめて教科書にない魅力を発見し、「楽しい経験としての学習」になり科学雑誌の存在をあらためて知って次の読物を要求することになったもので、まさに拡散的好奇心のあらわれととらえることができよう。これは、筆者の場合と逆の過程をたどったことになり、現代高校生を取巻く「情報過多社会環境」が必要な情報を渇望しない状況に押し込んで生じた現象であろうと思われる。

そして好奇心は「発表」によって社会的交渉を生じて、向上心が刺激され、結果的に学習意欲が喚起されたものであろう。

(二) 坂元昂は学習意欲に八類型があり、その要素は相互関連的に八種ある、と分析している。今、自習態度をこれにてらすと1)指示を守り、2)計画的に、3)根気よく、4)要領よくまとめた静的意欲の類型に該当し、調べる行動は1)指示を守り2)根気よく3)追求し4)友人と助け合ってやる行動的意欲の類型に合致していた。従って、意欲的に学習活動をさせる場合には事前に「意欲的学習態度の構造」を説明して自習作業に入らせれば効果的と思われる。

(三) 実験生徒群は比較的学習能力の高い集団で抵抗なく進められた。このことは動物実験でも確かめられているといわれる。では、学習能力の比較的低い生徒群ではどうか、ということについては推定でしかないが、身近かな素材を選び細部にわたる指導があれば可能であると思う。

また、この実験では数量的資料が乏しいので適確な判断はできない。

(四) 聴講者は理解不充分のような印象を受けていたが、実際は不適応どころか拡散的知的好奇心が刺激されていた。それは、実験二クラスのうち一クラスでは卒業に際してクラス会計上の残金で岩波新書・石川辰夫著「分子生物学入門」を購入し配布された(HRTは数学科担当)ことでうなずけよう。田 学習評価はしていないが「影響」という巨視的立場で評価すれば(「評価されると嫌いになる」と説くトークン理論に従えば外的評価をしなかったのが好結果を導いたのかもしれない)最初の仮説五項目を捨てることはできない。従って、この生徒群では講読学習は好奇心と向上心を刺激するのに役だち、学習意欲の喚起に有効であったといえよう。

 

七 結論

 

以上から次の結論が得られる。

(一) 雑誌講読学習は高校生物教育に利用できる。

(二) 現代高校生の知的好奇心は特殊的好奇心が変容して拡散的好奇心になる。それは教科書にない魅力を感じて「面白い学習」を体験するからで、このことが学習意欲を刺激するのだろう。

(三) 学習能力の比較的低い生徒群でも

三十一ページに続く

 

 

 


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