教育福島0107号(1985年(S60)12月)-024page

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界した父を思うと、私のあまえに今でも悔いが残ります。

それから何年も悩みの連続でした。多くの本をたよりに、それでも迷うことばかりでした。幼児の心が理解できず、思うように指導できないもどかしさから、つい小言が多くなり、曇る子どもの表情にハツとし、オルガンのふたに「叱らない」と書いておいたこともありました。たまたま風邪をひいた時にしていたマスクのおかげで、幼児の楽しい声が、かわいいつぶやきが耳にはいり、一方的に話すだけではいけないことに気づかされることもありました。

その後、結婚をし母となりました。生みの苦しみの後、はじめて見る我が子にわけもなく感動し、かわいいと思い、「この子の健やかな成長と幸せのためにがんばらなければ」と心に誓いました。この感動は、すべての親に通ずるものと思います。このような保護者の願いを受けて、幼児をおあずかりしている私たちです。信頼にこたえる教育をさらに進めるためにも、大いなる母の愛を心に、一人一人の子どもをより望ましく育ててまいりたいと思います。

一年ごとに新しい幼児が入園し、そして修了していきます。短い一年間ですが、私は、この子らに出会えたそのことに深い意味を感じたいと思います。

この幼児たちのかけがえのない一日一日、一年のために、幼児期における発達課題の達成をめざして、望ましい経験や活動の選択と配列、幼児理解に基づく指導法の工夫、改善などに常に留意し、母の愛に通ずる教師の愛に根ざした、きめ細かな実践を積み重ねてまいりたいと思います。

豊かさと便利さの中で、損なわれていくものが多すぎるいま、健やかな、よりたくましい幼児の成長を願い、研さんするとともに、私自身、教師として人間として、心豊かに生きる意味を深く求め、幼稚園教育充実のために努力していくことが、私の教師としての課題であると思います。

(飯野町立飯野幼稚園教諭)

 

努力は光る

上川順一

 

B小規模校のこととて、教職歴三年めを迎える若いA先生に白羽の矢は立った。

 

三月末の教職員の人事異動で音楽主任の転出が決まったころ、来年度の音楽主任をだれにするかが問題となった。小規模校のこととて、教職歴三年めを迎える若いA先生に白羽の矢は立った。

A先生は、「私はピアノが苦手だし、みんなをまとめるとなると……」と渋りがちだったが、そのうち「がんばってみます。応援してください」と快く引き受けてくれた。

本校では、音楽主任が朝の会で校歌等の伴奏をすることになっている。最初のうちは、前奏の部分で失敗したり、テンポが速くなったり、うまくいっているなと思っていると途中で伴奏が消えてしまったりの連続で気の毒なくらいであった。

五月も過ぎ六月になると、音楽室から聞こえてくるのは本格伴奏となり、子どもたちの歌声もいきいきとテンポにのって、弾んで聞こえてくるようになってきた。

九月に入ったある日の夕刻、ひとり職員室で仕事をしていると、「エリーゼのために」の美しいメロディーが胸にしみこむように流れてきた。「だれだろう」と出勤札を見るとどうもA先生らしい。しかし、まさか、と思うほど美しい。思わず立ち上がって音楽室に行ってみた。やはりA先生だった。「もう一度聴かせてください」とお願いすると、恥ずかしそうに、それではと言って軽快なタッチで弾き始めた。四月のころの指づかいとはまるで違っていた。別人を見ているようである。思わず「すばらしい上達ぶりですね」と声をかけると、「今年の夏休みは、ピアノがお友達でした。今はこの曲を練習しています」と「銀波」も聴かせてくれた。私は一驚すると共に「継続することは力であり、努力は必ず光るものだ」ということばをしみじみと噛みしめていた。

「教育の目的は、各人が自己の教育を継続できるようにすることである」とデューイも言っているが、これは、真理を抽象的な思惟によってではなく実生活の中での経験によってとらえるという立場をとっているものと思われる。

まさに教える者、つまり指導者は社会の進歩に遅れることなく、教育に貢献するために、自己を継続的に向上させなければならないのである。A先生のひたむきな努力のあとに、私はその言葉を見い出した。

A先生の姿には、もう、四月当初のおぼっかなさはどこにもない。教えることへの自信さえ感じさせてくれた。

今、A先生は県下小中学校音楽祭第二部への出場をかけて、全校生五十九名の合奏を指導している。その姿は自信に満ち、子どもたちも本気になって演奏に取り組んでいる。

臨教審が「教職員の資質の向上」を打ち出してきたこの秋にあたり、A先生のように努力する先生と学習できる子どもたちはほんとうに幸せだと思うこのごろである。

(いわき市立久之浜第二小学校教頭)

 

 

 


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