教育福島0107号(1985年(S60)12月)-035page
生徒はそれぞれの環境の中で育ち、物語になる素材はもっています。そのストーリーに託した生徒の気持が見えた時「ヨォシ、これはいい、大いに頑張れ!」と思わず生徒の肩をたたいて本人以上に興奮している自分に驚いたりします。
三 ストーリーを文章にする
読者に訴えたいテーマが決ったらいよいよストーリー作りに入ります。「国語の時間みたい」という不満はあるが、文章化することによって考えをまとめ、客観視してゆき、一人一人の物語にさせるためには文章化させることが重要なポイントです。
このとき、生徒はあれもこれもと書き、結局、何を言いたいのか焦点がボケてしまいますから、なるべく単純明解な文章になるよう指導します。
また、この場面は絵が難かしいからとかこのキャラクター(だいたいは漫画の物まね)が描きたいからといった二次的な要因からくるストーリーはやめさせ、正攻法でテーマを追求させる。そして、下描きの段階でデッサンの仕方などを充分に指導し表現力を付けてやる方法をとっています。
四 場面割り
クライマックスをどこにするか、同じ様な場面はなるべくつくらないなど、変化に富み読者を引き着ける場面展開を指導します。
五 下描き
何場面にするかが決ったら、それぞれの場面の登場人物、背景のデッサンに入ります。ここでの指導が絵本づくりのポイントです。この段階を厳しくとらえるか否かで読者を引きつける絵本になるかどうかの別れ道だと考え頑張らせています。また、ここで時代考証その他背景のデッサンにもできるだけ多くの資料を活用させます。ここでの指導は「こんなデッサンで主人公の気持が読者に伝わるか、とか、何が足りないのか考えなさい」などと話しかけできるだけ観察やデッサン、画面構成の工夫に目を向けさせます。デッサン時には男性役のモデルとしてよく私がかり出されます。その時は快く引きうけ、「まだか?腕が疲れる早くしてくれ」などと声をかけ話し合いながらやっているとデッサンを軽視している生徒もしっかりやらなくてはならない、と真剣に取り組むものです。
六 ダミーづくり
これは下描きの集大成でミニ完成品とでもいうもので彩色し表紙・扉・後づけまで本物と同じ物をつくり作品制作に入る前の最終点検を行うものです。
七 本文の制作及び製本
どの場面からでも良いが、一枚一枚見開きの場面を描いていく、画面が出来たら文字をサインペンなどで入れる、
次に仕上った一場面づつの紙を背中合せに貼り、両見返しまで貼り終えたら化粧裁ちをして本文を完成させる。
八 表紙の制作と接着
表紙は布や厚ボール紙などを使いなるべくしっかりした体裁の良いものを作らせます。内容もさることながら装丁が良いとけつこう見られるもので、いつも表紙つくりには力を入れています。次に表紙と本文を見返しの紙で接合します。これで九分通り完成です。生徒もここまでくると形として仕上がって出来ばえが見え、喜びが感じられ作業のスピードも上ってきます。
九 後書き
絵本が完成して、後書きは作者のことばという形で後付けの所に書かせます。その内容は、この本のねらい、どういうものか、読者に何を感じとってもらいたかったか、などを記入させることにしています。この事は学習内容の点検と確認には必要なことです。
以上が授業の概略ですが、表題に美術教育で何を育てるかと大それた事を述べましたが、第一には、絵本の製作をすすめる中で、簡潔で明快な文章表現や、歴史的背景の時代考証などであらゆる教科との関連の大切さを感じさせ、それがデッサンや色の扱い、構図に巾と奥行きを与えることを学ばせている。第二には、読者の気持ちを想いやりながら、作者の意志は明確に主張していく、未来に理想を掲げながら(夢を抱きながら)現実の不合理を改めていく生き方を学ばせたいのです。現実社会に妥協し流されがちな生徒たちには特に必要なことだと考えます。第三に自分が創造した小宇宙が「世界でたった一冊しかない絵本」という形となって完成した喜び、創作の喜びは最高のもので生徒の人生にとって大きな収獲となっています。生徒たちは「先生、何時返してもらえますか?」と催促する状況です。
まだ表現技術の指導や、時間がかかり過ぎるなど問題はありますが、ストーリーを完成し、それを表現する楽しさは捨て難い魅力をもっています。今後も種々の工夫を重ねながら教材としての位置づけを明確にしてゆきたいと考えます。
図1 場面ごとの構図の変化