教育福島0110号(1986年(S61)04月)-026page
う調子で今考えると笑いがこみ上げる思いである。
またSは行動的であった。ある日の放課後出し抜けに、「栗林、那須まで自転車で行かないか」と誘った。早速自転車を借り、落日の太陽を追いかけるようにペダルを踏んで汗だくになったものであった。
那須は人一倍彼を弓付けたようであり、一人で冬にさえ足を運んでいた。
我々仲間と那須甲子縦走もした。本格的登山と称して北アルプスの槍ケ岳へも登った。
その後、三人はそれぞれ転勤し、離れ離れとなった。そしてSからは、教職を離れ画家として独立する便りが届いた。更にその後、院展の同人推挙の報が届いた。その祝賀会の折、彼は那須時代を振り返り“叢林”という院展入選作のエピソードを話した。
「私は那須の麓のうっ蒼とした木々をどう表現してよいかわからず悩み、最後は山へ登って一本一本自分の手で木に触れその感触を思い出しては描き山へ行って触れては描きました」と。
一見大らかでずぼらに思っていた彼が大きく見えた。手抜きせずこつこつとキャンバスに向う姿を思い、“生きる世界は異なるが通ずるものがあるな”と思った私は、彼が一層身近な人物に思えた。
(県立白河高等学校教諭)
青く美しい地球
紺野武夫
七十六年目の巡り合いを終えハレーすい星が去って行った。ハレーすい星は全世界の人々に共通の話題を提供し人類の心を一つにした。七十六年後、人類は再びハレーすい星を迎えることができるであろうか。
人類の未来はどうなるのであろう、人類の文化の方向は正しい方向へ進んでいるのであろうか。
現在、人類は自然環境を大きく変えることのできる多量のエネルギーをコントロールすることができる。しかし、人類もこの地球上に生存している生物の一種であり、生態系の一員として自然界の物質循環の輪から逃れることはできない。今日まで人類は自然環境へ積極的にはたらきかけ生産や文化を発達させてきた。今後もこの方向で良いのであろうか。
人口は今世紀末までに七十億人に達することが推定されている。こうなると単純計算で人間一人当たりが占めることのできる陸地の面積は約○・二平方キロメートル(南極大陸なども含めて)にすぎない。果たして人口増加は人類の繁栄と結びつくのであろうか。
科学技術の発達も現代のエネルギー多消費型の技術は自然環境を悪化させ自然の改良・征服への道を突き進み自然界の物質循環の輪を崩してしまい、生態系の調和を乱しつつあるのではなかろうか。
生物は総てネガティブのフィードバックシステムをもち恒常性を維持し続けると言われている。動物群の個体数が増し密度が高くなると自動的に定常状態まで減少する。
人口増加、エネルギー消費の増加、なんらかのネガティブのフィードバックが作用しているのであろうか。作用していないとするならば、いずれ近い将来に極限状態を迎えてしまうのではなかろうか。
人類と自然との調和について、今こそ全人類で考えなければならない時期である。そして極限状態を迎える前に真のフィードバックをかける必要がある。子どもたちを見るにつけ是非人類が、その英知で永遠の文化を確立し繁栄し続けることを願うものである。
私にできること、それは子どもたちに物を大切にする心、そして地球的視野でのおもいやりの心を育ててやることであろう。この青く美しい地球が再びハレーすい星とランデブーできるように。
(県立福島工業高等学校教諭)
人口増加とエネルギー消費量
(世界人口年鑑、世界エネルギー統計)